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世代で異なる「承認・評価」の価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント

Tags: 世代間ギャップ, 承認, 評価, 相互理解, コミュニケーション

世代によって異なる「承認・評価」の価値観

私たちの多くは、「認められたい」「正しく評価されたい」という気持ちを持っています。しかし、その「認められ方」や「評価のされ方」に対する期待や価値観は、育ってきた時代や環境によって異なることがあります。この世代間の価値観の違いは、職場や家庭におけるコミュニケーションにおいて、ときにすれ違いや誤解を生む原因となることがあります。

なぜ、世代によって「承認」や「評価」に対する感覚が異なるのでしょうか。そして、この違いを理解し、どのようにすればお互いをより良く理解し、円滑な関係を築くことができるのでしょうか。本記事では、それぞれの世代が持つ「承認・評価」に対する価値観の背景を探りながら、世代間の相互理解を深めるための具体的なヒントをご紹介します。

世代による「承認・評価」観の違いとその背景

世代ごとの「承認・評価」に対する価値観は、その世代が社会に出た頃の経済状況、雇用慣行、教育システム、そして普及していたテクノロジーなどが深く関係しています。

安定成長期に育った世代の価値観

現在50代後半以上の世代の多くは、終身雇用や年功序列が一般的であった時代に社会人生活をスタートさせました。組織への貢献が重んじられ、個人の評価は長期的な実績や勤続年数に基づいて行われる傾向が強かったと言えます。

この時代は、多くの場合、結果を出すことが最も重要視され、個人の努力やプロセスに対する言葉での承認は、現在ほど頻繁ではありませんでした。黙々と自分の仕事に打ち込み、成果をもって示すことが「良し」とされ、上司や周囲は、わざわざ言葉にしなくとも部下の働きや努力を「見ている」という感覚がありました。評価は昇進や昇給という形で示されることが多く、日々の仕事の中で細かく「承認される」ことへの期待値は、今よりも低かったと考えられます。また、経済成長の波に乗る社会全体の活気の中で、個人の承認欲求よりも、組織や社会への貢献、一体感が重視された側面もあります。

変化の時代に育った世代の価値観

一方、現在30代以下の若い世代は、成果主義や流動性の高い労働市場が当たり前となり、インターネットやソーシャルメディアの普及した環境で育ちました。個人のスキルや専門性が重視されるようになり、自身のキャリアを主体的に設計する必要に迫られる機会も増えています。

このような環境では、自身の市場価値を高めるためにも、日々の努力やプロセス、そして具体的な成果に対するフィードバックや承認を求める傾向が強まります。SNSの普及は、自身の活動や思考を「可視化」し、他者からの「共感」や「いいね」といった形で瞬時に承認を得られる文化を育みました。教育においても、個性を伸ばし、自己肯定感を育むことに重点が置かれるようになり、「褒めて伸ばす」教育を受けてきた人も少なくありません。そのため、努力のプロセスや具体的な行動に対する言葉での承認や、頻繁なフィードバックを得られることに価値を見出す傾向があると言えます。

世代間ギャップがもたらす課題

このような背景の違いから、「承認・評価」に関する世代間のギャップは、様々な場面で摩擦を生む可能性があります。

例えば、上の世代が「結果を出せば評価されるものだ」「言われなくても自分の仕事はやるものだ」と考えているのに対し、若い世代が「努力しているプロセスも見てほしい」「もっと具体的に『良い点』や『改善点』を言葉で伝えてほしい」と期待している場合、お互いの期待に応えられず、不満や不信感につながることがあります。

上の世代は、若い世代の「承認欲求」が強く感じられたり、「褒められ待ち」のように見えたりして戸惑うことがあるかもしれません。一方、若い世代は、自分の努力が正当に評価されていない、関心を持ってもらえていないと感じ、モチベーションを失ってしまうこともあるでしょう。

相互理解と円滑なコミュニケーションのために

世代間の「承認・評価」に関する価値観の違いは、どちらが正しい、間違っているという類のものではありません。それぞれが育ってきた時代背景に適応する中で培われた、異なる「当たり前」なのです。この違いを乗り越え、相互理解を深めるためには、いくつかのヒントがあります。

相手の「当たり前」の背景を知る

まず大切なのは、自分自身の「当たり前」は、他の世代にとっては「当たり前」ではないかもしれない、という認識を持つことです。相手の価値観がなぜそのように形成されたのか、その背景にある時代や社会環境に関心を持つことが、理解の第一歩となります。相手を一方的に批判するのではなく、「自分とは違う価値観を持っているのだな」と認め、その背景に思いを馳せる姿勢が重要です。

言葉にして伝える努力

特に、上の世代から若い世代へのコミュニケーションにおいては、意識的に言葉で伝える努力が有効です。例えば、「君の資料作成、前回よりここが良くなったね」「あの提案のために、随分調べ物をしたんだろう、努力が伝わってきたよ」など、結果だけでなく、そこに至るプロセスや具体的な行動の良い点を言葉にして伝えましょう。これは「褒める」というより、「見ているよ」「関心を持っているよ」というメッセージを伝える行為であり、若い世代の安心感やモチベーションにつながります。

また、若い世代から上の世代へは、単に「頑張ります」だけでなく、「この目標を達成するために、具体的にこのような方法で取り組んでいます」と、自身の努力や考えていることを分かりやすく伝えることが有効かもしれません。

対話としてのフィードバック

評価は、一方的に下されるものではなく、対話を通じて行われるべきものです。期待すること、評価の基準、良い点、改善が必要な点などを、具体的な事実に基づいて丁寧に伝えましょう。なぜその評価になるのか、その背景や理由を説明することで、受け手は納得しやすくなります。特に若い世代は、ただ評価を受けるだけでなく、そこから何を学び、どう成長すれば良いのかを知りたいと思っています。建設的なフィードバックは、彼らの成長を促す重要な機会となります。

感謝や労いの文化を醸成する

成果の大小に関わらず、お互いの貢献や努力に対して感謝や労いの言葉を伝え合う文化を組織や家庭内で意識的に作っていくことも有効です。「ありがとう」「お疲れ様」といったシンプルな言葉でも、相手にとっては「自分の働きが見てもらえている」「認められている」という安心感につながります。これは世代に関わらず、良い人間関係を築く上で非常に効果的な方法です。

まとめ

世代によって「承認」や「評価」に対する価値観が異なるのは、それぞれの時代背景に根ざした当然の結果です。この違いを単なる「ギャップ」や「問題」と捉えるのではなく、多様な価値観が存在することを理解し、認め合うことが相互理解への第一歩となります。

上の世代が持つ経験や知恵は、若い世代にとって貴重な財産となります。それを伝えるためには、一方的に過去の成功論を語るだけでなく、若い世代が関心を持つ「承認」や「評価」というレンズを通して、彼らが共感できる言葉や方法で伝えていく工夫が必要です。相手の価値観の背景を知り、言葉で具体的に伝え、対話を通じて理解を深める努力を続けることで、世代間の壁を越え、より良い人間関係と建設的な協力を築くことができるでしょう。