世代で異なる「意思決定」のスタイル:背景を知り、相互理解を深めるヒント
世代で異なる「意思決定」のスタイル:背景を知り、相互理解を深めるヒント
職場や家庭など、様々な場面で私たちは日々意思決定を行っています。会議での方針決定から、日々の小さな選択まで、そのプロセスや基準は人によって異なります。特に異なる世代間で協力して物事を進める際、この意思決定のスタイルの違いが、戸惑いや意見の対立を生む原因となることがあります。
なぜ世代によって意思決定のアプローチが異なるように見えるのでしょうか。それは、それぞれの世代が育ってきた時代背景や社会環境が、価値観や考え方に大きな影響を与えているからです。この違いの背景を理解することは、世代間の相互理解を深め、よりスムーズで効果的な意思決定を行うための第一歩となります。
この記事では、世代ごとの意思決定のスタイルに焦点を当て、その背景にある時代要因を解説します。そして、世代間のギャップを乗り越え、相互理解を深めるための具体的なコミュニケーションのヒントや、自身の経験を新しい世代に伝えるための考え方について考察します。
世代ごとの意思決定スタイルと時代背景
世代によって意思決定のスタイルが異なる傾向があるのは、主に以下の時代背景が影響していると考えられます。
組織と経験則を重んじた時代(主に戦後〜高度経済成長期に社会人となった世代)
この世代が若い頃は、日本経済が右肩上がりに成長し、組織に属して皆で協力し目標達成を目指すことが一般的でした。情報へのアクセスは限られており、個人の経験や組織内での長年の知見、あるいは上司の判断が重要な意思決定の基準となりました。
- スタイル例:
- 組織の意向やルールを重視する傾向。
- 過去の成功体験や経験則に基づいた判断。
- 情報収集よりも、信頼できる少数の意見や直感を重視。
- 意思決定プロセスにおいて、根回しや非公式な調整を重視することも。
- トップダウンでの迅速な決定が行われやすい。
情報化と多様性が始まった時代(主にバブル期〜就職氷河期に社会人となった世代)
経済の停滞やバブル崩壊を経験し、終身雇用神話が揺らぎ始めた時代です。コンピュータやインターネットが徐々に普及し始め、情報へのアクセスが比較的容易になりました。多様な価値観が生まれ始め、個人の意見や権利が意識されるようになります。
- スタイル例:
- 過去の経験に加え、データや客観的情報の活用も検討。
- 複数の選択肢を比較検討するプロセスを重視。
- 組織のルールと個人の合理性のバランスを考慮。
- 合意形成や説明責任への意識が高まる。
デジタルネイティブと情報過多の時代(主にゆとり世代以降に社会人となった世代)
インターネットやスマートフォン、SNSが当たり前の環境で育ちました。いつでもどこでも膨大な情報にアクセスできるため、意思決定において徹底的な情報収集やデータ分析を重視する傾向があります。個人の価値観や多様性を尊重し、オープンで透明性の高いプロセスを好みます。
- スタイル例:
- 徹底的な情報収集、データに基づいた分析を重視。
- 論理的思考や合理性を追求。
- 多様な意見を聞き、フラットなコミュニケーションを好む。
- 意思決定プロセスや根拠の透明性を求める。
- スピード感よりも、納得感や合意形成を重視する場合がある。
- SNS等で他者の意見や評判を参考にすることも多い。
世代間ギャップが生む課題と相互理解のヒント
こうした意思決定スタイルの違いは、以下のような課題を生む可能性があります。
- 意思決定の遅延: プロセスの重視や合意形成に時間をかけるスタイルと、迅速なトップダウンを好むスタイルが衝突する。
- 非効率: 根拠やデータの説明が不十分と感じたり、根回し文化が理解されなかったりする。
- 不信感: 経験則のみの判断が非論理的だと感じられたり、データばかりに頼る姿勢が経験を軽視しているように見えたりする。
- 対立: 異なる基準やプロセスを主張し合い、建設的な議論が難しくなる。
これらの課題を乗り越え、相互理解を深めるためには、以下の点がヒントになるでしょう。
1. 相手のスタイルの「背景」に関心を持つ
単に「考え方が違う」と決めつけるのではなく、「なぜ、この人はこのような判断基準やプロセスを重視するのだろうか?」と、その背景にある経験や価値観、育った時代に関心を持つことが重要です。「〇〇さんの時代は情報が限られていたから、経験則が非常に重要だったんですね」のように、背景を理解しようとする姿勢を示すことで、相手は自身の判断基準を否定されたと感じにくくなります。
2. 自身の「なぜ」を丁寧に伝える
特に経験則に基づいた判断をする場合、「なぜそう考えたのか」「その判断が過去にどう活きたのか」を具体的に、論理的に説明することを心がけましょう。「昔からこうしている」というだけでなく、「あの時は、情報がこれしか手に入らなかったから、この経験則を頼りにするしかなかった。結果的にそれが正解だった」のように、当時の状況や判断の根拠を具体的に伝えます。これにより、経験談が単なる昔話ではなく、再現性のある知見として伝わりやすくなります。
3. 共通言語としての「情報」や「論理」を活用する
情報収集や論理的思考を重視する世代に対しては、データや客観的な情報を提示することが、議論を深める上で有効です。自身の経験則も、「〇〇というデータはこの経験と整合性が取れている」「このデータは過去の経験則だけでは予測できなかった、新しい視点を与えてくれる」のように、データや論理と紐付けて説明することで、より説得力が増します。
4. プロセスと結果の両方に目を向ける
経験重視の世代は「結果を出すこと」を強く意識し、プロセスは効率を求める傾向があります。一方、情報重視の世代は「プロセス」の透明性や合理性を重視します。お互いのスタイルを認め合い、時には「この件はスピード重視で進めましょう」「この件は、皆でじっくりデータを検討しましょう」のように、意思決定の性質によってアプローチを柔軟に変えることも有効です。
5. 経験を「判断軸」や「示唆」として伝える
新しい世代に自身の経験を伝える際は、「こうしろ」という指示ではなく、「私が過去に同じような状況で重視したのは、〇〇という点だった。それは、当時は××という理由があったからだ。今の状況で、その経験がどんな示唆になるか、一緒に考えてみないか?」のように、経験を「判断軸」や「考えるための材料」として提示する形を試みてください。一方的に答えを与えるのではなく、共に考える姿勢を示すことで、経験の価値が伝わりやすくなります。
まとめ
世代によって意思決定のスタイルに違いが見られるのは、それぞれの時代背景が深く関係しています。これらの違いは、時に摩擦を生む原因となりますが、その背景を理解し、お互いのスタイルを尊重し合うことで、相互理解を深めることができます。
自身の豊富な経験は、新しい世代にとって貴重な財産です。それを伝える際には、単に結果や結論を語るだけでなく、なぜそのように判断したのか、その背景には何があったのかを丁寧に説明することが重要です。また、新しい世代の情報に基づいた合理的アプローチの良い点も受け入れ、自身の経験と新しい視点を融合させることで、より質の高い意思決定が可能になるでしょう。
世代間の壁を感じたときには、相手の「なぜ」に耳を傾け、自身の「なぜ」を丁寧に伝えることから始めてみてはいかがでしょうか。それが、より豊かな人間関係と、より良い意思決定への一歩となるはずです。