世代で異なる「多様性・インクルージョン」への価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント
世代で異なる「多様性・インクルージョン」への価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント
近年、職場や社会において「多様性(ダイバーシティ)」や「インクルージョン(包摂)」という言葉を耳にする機会が増えました。年齢、性別、性的指向、障がい、国籍、文化、価値観など、様々な違いを持つ人々が互いを認め合い、尊重し、それぞれの能力を発揮できる環境をつくることの重要性が広く認識されるようになっています。
しかし、こうした多様性やインクルージョンに対する意識や価値観は、世代によって違いが見られる場合があります。「当たり前」と感じることや、気にかけるべき点、言葉遣いなどにおいて、無意識のうちにギャップが生じ、互いに戸惑いを感じることもあるかもしれません。
この記事では、なぜ多様性やインクルージョンへの価値観が世代間で異なるのか、その背景にある時代ごとの特徴を紐解きながら解説し、世代を超えて相互理解を深め、より良い関係性を築くためのヒントを探ります。
世代ごとの価値観が形成された時代背景
世代間で多様性やインクルージョンへの価値観が異なるのは、それぞれが育ってきた社会環境や経験が大きく影響しています。
上の世代(概ね50代以上)が経験した時代
多くの上の世代の方々が社会に出た頃は、高度経済成長期を経て、組織の均質性や集団への適応が重視される時代でした。終身雇用や年功序列といった雇用慣行が一般的で、組織に求められるのは個性の発揮というよりも、組織の方針に従い、和を重んじる姿勢でした。
また、情報源が限られており、マイノリティと呼ばれる人々に関する情報や理解は、現在ほど広く共有されていませんでした。多様な生き方や価値観に触れる機会も、今ほど多くはなかったと言えるでしょう。そのため、「皆と同じであること」「目立たないこと」が良いとされたり、性別による役割分担が無意識のうちに前提とされたりするような社会の中で、価値観が形成されてきました。
若い世代(概ね30代以下)が経験している時代
一方、若い世代は、グローバル化が進み、インターネットやSNSを通じて世界中の多様な情報や価値観に容易に触れることができる環境で育っています。学校教育においても、以前に比べて多様性の尊重や人権について学ぶ機会が増えています。
また、終身雇用が当たり前ではなくなり、個人のスキルやキャリア形成に焦点が当たるようになったことで、「自分らしさ」「個性の尊重」を重視する傾向が強まっています。企業においても、多様な人材の活用が競争力の源泉になると考えられるようになり、多様性やインクルージョンを推進する取り組みが積極的に行われています。
こうした背景から、若い世代にとっては、様々な違いを持つ人々がいること、そしてそれぞれが尊重されるべき存在であることは、比較的自然な感覚として受け入れられていることが多いと言えるでしょう。
具体的な価値観の差異と世代間ギャップの例
価値観の違いは、日々のコミュニケーションや行動の様々な場面で現れることがあります。
- 言葉遣い: 性別、年齢、性的指向、障がいなどに関する特定の言葉や表現について、若い世代は特定の言葉を不適切と感じたり、より配慮された表現を使ったりする傾向があります。上の世代にとっては長年慣れ親しんだ言葉でも、若い世代には抵抗がある場合があります。
- 組織やチームにおける個人の尊重: 仕事の進め方や服装、髪型など、これまでは「組織のルール」として一律に求められていたことに対して、若い世代は個人の自由や事情を考慮した柔軟性を求めることがあります。
- 意思決定への参加: 若い世代は、自身の意見や視点が組織の意思決定に反映されることをより強く期待する傾向があります。上の世代が経験した「上からの指示に従う」というスタイルとは異なる感覚を持つ場合があります。
- 働き方やキャリア観: 個人のライフスタイルや価値観に合わせて、多様な働き方(リモートワーク、フレックスタイムなど)やキャリアパスを追求することを当然と捉える若い世代に対し、上の世代はかつての「滅私奉公」的な働き方や画一的なキャリア観との違いに戸惑うことがあります。
こうした違いは、どちらが良い・悪いということではなく、それぞれが育った時代や環境に適応する中で自然に形成されたものです。
世代間相互理解を深めるためのヒント
世代間の多様性・インクルージョンへの価値観のギャップを乗り越え、相互理解を深めるためには、いくつかの視点が役立ちます。
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「違いがある」ことを認識する: まずは、自分とは異なる価値観や考え方を持つ人がいること、そしてそれはその人の経験や育った環境によるものであることを理解することが第一歩です。自分の「当たり前」が、相手の「当たり前」ではないかもしれない、という視点を持つことが重要です。
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相手の背景を知ろうとする姿勢を持つ: なぜ若い世代はその言葉を使うのか、なぜその働き方を望むのか、といった相手の言動の背景にある理由や価値観に興味を持ち、質問してみることで、理解が深まります。一方的に決めつけたり、「最近の若い者は…」と否定したりするのではなく、「どうしてそう思うの?」と問いかける対話の姿勢が有効です。
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自身の経験を「歴史」として共有する: 上の世代が経験してきた時代には、その時代ならではの「常識」や価値観がありました。多様性への意識が今ほど高くなかった時代に、どのように組織が運営され、人々が働いていたのか。その経験は、若い世代にとっては貴重な「歴史」です。ただし、それを「昔はこうだったから、今もこうすべきだ」と押し付けるのではなく、「私の時代はこういう考え方が一般的だったけれど、今は状況が違うね」といった形で、当時の背景と共に伝えることが大切です。なぜ当時の考え方では今の時代に合わないのか、という点も一緒に考察することで、より建設的な対話になります。
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学び続ける姿勢を持つ: 多様性やインクルージョンに関する考え方や言葉遣いは、社会の変化と共に常にアップデートされています。新しい情報や考え方に対し、頑なにならずに耳を傾け、学び続ける姿勢を持つことが、若い世代からの信頼を得るためにも重要です。
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具体的な行動から始める: 例えば、会議で発言しにくい人がいないか気を配る、特定の属性に対する無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)について学ぶ機会を持つ、若い世代が提案する新しいアイデアに耳を傾けるなど、具体的な行動から少しずつ取り組むことも効果的です。
まとめ
世代によって多様性やインクルージョンへの価値観が異なるのは、それぞれの時代背景や社会経験によるものです。この違いを否定的に捉えるのではなく、互いの経験や視点から学び合う機会と捉えることができれば、世代間の相互理解は大きく進みます。
上の世代が持つ、組織や社会における経験や知恵は、多様性を活かしたより良い未来を築く上でも貴重な財産です。若い世代の新しい感覚と、上の世代が培ってきた経験や視点を組み合わせることで、個人も組織も、そして社会全体も、さらに豊かになっていくはずです。
世代間の価値観の違いを知り、互いを尊重し、対話を重ねることで、よりインクルーシブな環境を共に創り上げていきましょう。