世代で異なる「公正さ・公平さ」の価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント
はじめに:世代によって異なる「公平さ」の基準
職場や家庭において、「これは公平ではない」「なぜ自分だけが」と感じたり、あるいは逆に、若い世代の主張に対し「我々の時代はそんなことは言わなかった」「それが当たり前だ」と感じたりすることはございませんか。世代間での価値観の違いは多岐にわたりますが、「公正さ」や「公平さ」に対する考え方もまた、時代背景や社会構造の変化と共に大きく異なってきています。
ご自身が「公平」だと信じる基準が、異なる世代にとっては必ずしもそうではない場合があります。この違いが、無用な軋轢や誤解を生む原因となることも少なくありません。しかし、これはどちらかの世代が間違っているのではなく、それぞれの世代が育った環境や経験に基づいて自然に形成された感覚の違いなのです。
本記事では、世代によって「公正さ」や「公平さ」に対する価値観がどのように異なるのか、その背景にはどのような時代の流れがあったのかを解説いたします。そして、この違いを理解し、世代間の相互理解を深めるための具体的なヒントを探っていきます。
世代ごとの「公正さ・公平さ」の価値観と時代背景
それぞれの世代が経験した社会状況や経済環境、教育方針などは、「何が正しく、何が公平か」という価値観の形成に深く影響を与えています。
安定成長期を経験した世代(概ね50代後半以降)
この世代の多くは、経済の高度成長期から安定成長期にかけて社会人となり、年功序列や終身雇用が比較的機能していた時代を経験しています。
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価値観の傾向:
- 努力と貢献: 組織への忠誠心や長期的な貢献が評価され、昇進や賃金の上昇に繋がることが「公平」だと感じられやすかった。
- 機会均等(入口): 同じ会社に入り、同じように努力すれば、一定の年次で同様の機会が与えられることが「公平」だと考えられる傾向。
- 我慢と忍耐: 組織の一員として、ある程度の不公平や困難を我慢し、耐え抜くことが美徳とされ、それが後の報いに繋がることが「公平」なプロセスの一部と捉えられやすかった。
- 上意下達: 決定プロセスにおいては、組織の上層部や経験豊富な年長者の判断に一定の合理性があり、それが「公正」な運営に繋がると考える傾向。
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時代背景: 組織が右肩上がりに成長し、パイが拡大していた時代です。個人の成果よりも、組織全体の調和や長期的な安定が重視されました。企業は「家」のような存在であり、組織への帰属意識や集団の利益が個人のそれより優先される場面が多く見られました。
バブル崩壊後、不確実性を生きた世代(概ね40代~50代前半)
バブル崩壊後の「失われた時代」に社会人となった、あるいはキャリアの中盤を過ごした世代です。終身雇用や年功序列が崩壊し始め、リストラや成果主義の導入を目の当たりにしました。
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価値観の傾向:
- 成果と実力: 年次だけでなく、個人の具体的な成果や能力が評価されることが「公平」だと考える傾向が強まります。
- プロセスの透明性: 評価や昇進、意思決定の基準やプロセスが不透明であることに不公平感を感じやすい。明確なルールや基準に基づく判断を重視します。
- 自己責任: 組織への依存度を下げ、個人のキャリア開発やスキルアップを重視します。自分自身の努力や選択が結果に繋がることが「公平」だと考えます。
- 情報共有: 必要な情報がオープンに共有されることが、組織内の「公平さ」を保つ上で重要だと認識しています。
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時代背景: 経済が停滞し、企業の存続自体が脅かされるような状況も経験しました。安定よりも変化への対応力、組織への貢献度合いの「見える化」が求められるようになり、個人の市場価値や実力がより意識されるようになりました。
デジタルネイティブ世代(概ね30代後半以降の若手世代)
インターネットやSNSの普及と共に育ち、多様な価値観や情報に日常的に触れています。物質的な豊かさが当たり前になり、精神的な満足度や個人のwell-beingを重視する傾向があります。
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価値観の傾向:
- 個の尊重と多様性: 一律の基準で測られることや、画一的な扱いに不公平感を感じやすい。それぞれの個性や多様性が認められ、尊重されることが「公正」だと考えます。
- 納得感と感情的な公平さ: 決定プロセスや評価結果に対し、論理的な説明だけでなく、感情的に納得できるかどうかも「公平さ」の重要な要素と捉えます。
- エンゲージメントと貢献実感: ただ指示に従うだけでなく、自身の意見が反映されたり、組織への貢献を実感できたりすることが、働きがいや「公平」な関係性だと考えます。
- 目的・意義の共有: 組織の目標や仕事の意義が明確に共有され、それに対する自身の貢献が実感できることが、単なる指示系統ではない「公正」な関係性の基盤だと考えます。
- 迅速なフィードバック: 努力や成果に対する評価やフィードバックが遅い、あるいは不明確であることに不公平感を感じやすい。
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時代背景: グローバル化、テクノロジーの急速な発展、非正規雇用の増加など、予測困難な時代を生きています。物質的な豊かさだけでなく、精神的な充足感や社会的な意義を求める傾向が強まりました。SNSなどを通じて常に他者と比較される環境にあり、個人の承認欲求や自己肯定感の維持が課題となる一方、異なる価値観や生き方に対する理解も進んでいます。
世代間の「公正さ」ギャップを乗り越え、相互理解を深めるには
異なる時代背景を持つ各世代が、「公正さ」に対する異なる基準を持っているのは当然のことです。この違いを認識することこそが、相互理解への第一歩となります。
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お互いの「公平」基準が異なることを認識する:
- 相手の「なぜそう感じるのだろう?」という疑問を持ち、その背景にある考え方や経験に思いを馳せることが重要です。「自分の当たり前」は相手の当たり前ではないという前提に立つことから始まります。
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判断基準やプロセスを丁寧に説明する:
- 特に、上の世代が若い世代に対して何かを指示したり評価したりする際には、その判断がどのような基準や考えに基づいているのかを、丁寧に言葉にして説明することが有効です。単に「昔からこうだから」「それがルールだ」という説明だけでは、プロセスの透明性を重視する若い世代には「不公平だ」と感じられる可能性があります。「なぜそうするのか」「この判断の目的は何か」を具体的に伝えることで、納得感が生まれやすくなります。
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相手の「不公平感」に耳を傾ける:
- 若い世代が不公平感を表明した際に、頭ごなしに否定したり、「我々の時代はもっと大変だった」と比較したりせず、まずは「なぜそう感じるのか」を真摯に聞いてみることが大切です。感情的な部分も含めて話を聞くことで、相手は「理解しようとしてくれている」と感じ、対話の扉が開かれます。
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ご自身の経験を伝える際の工夫:
- ご自身の経験談を若い世代に伝えることは、非常に貴重な資産です。しかし、その際に「私の時代はこうだった、だからお前たちもこうあるべきだ」という形で伝えると、「時代が違うのに不公平だ」と感じられてしまう可能性があります。
- 伝え方のヒント:
- 「私が若い頃は、景気が良くて年功序列が一般的だったから、努力すればいつかは報われるという安心感があったんだ。だから、すぐに結果が出なくても我慢できた。今の皆さんとは置かれている状況が違うかもしれないけれど、当時の私の『公平』はこういうものだったよ」というように、当時の社会背景やご自身の「公平」基準の前提条件を添えて話す。
- 「あの時はこういう状況で、こうしたことが課題だったから、こういう判断や行動が『公平』だと考えられていたんだ。今ならもっと別のやり方があるかもしれないね」と、時代による制約や変化の可能性に言及する。
- ご自身の経験から得た「本質的な知恵」(例:困難を乗り越える力、工夫する姿勢、人間関係の築き方など)を、「当時の文脈」から切り離して、普遍的な示唆として伝えることを意識する。
結論:違いを理解し、共に未来を築くために
世代によって「公正さ」や「公平さ」の基準が異なることは、避けられない自然な現象です。これは、それぞれの世代が直面してきた課題や、社会の変化に適応する中で形成された価値観の表れです。
この違いを単なる「ギャップ」として捉えるだけでなく、多様な視点が存在することの豊かさとして受け止めることができれば、世代間の相互理解は大きく進展します。お互いの「公平」基準の背景にあるものを理解し、丁寧なコミュニケーションを通じて、それぞれの価値観を尊重し合う関係を築くことが、より公正で働きやすい、あるいは暮らしやすい環境を共に創り上げることに繋がるのではないでしょうか。
特に、経験豊富な上の世代が、ご自身の「公平」基準が形成された背景を伝えつつ、若い世代の持つ新しい「公平」の感覚にも耳を傾ける姿勢は、世代を超えた信頼関係を築く上で非常に重要です。この積み重ねが、より良い未来への道を開くことでしょう。