世代で異なる「教育観・学び方」:背景を知り、相互理解を深めるヒント
はじめに:学び方、育て方の「常識」は世代で違う?
職場での新人育成、あるいはご家庭でのお子様やお孫様との関わりにおいて、「どうして私たちの頃とはこんなに違うのだろう」「私の経験やアドバイスがうまく伝わらないな」と感じることはありませんでしょうか。特に「学び方」や「教え方」に関する価値観は、世代によって大きく異なる場面が見受けられます。
かつて良しとされた勉強法や仕事の覚え方が、新しい世代には響かなかったり、逆に彼らのユニークな学び方についていけなかったり。こうした世代間の「教育観」や「学び方」の違いは、時に戸惑いや摩擦を生む原因となることもあります。しかし、これはどちらかの価値観が間違っているわけではありません。それぞれの世代が育ってきた時代背景が、その学び方や教育に対する考え方に深く影響を与えているのです。
この記事では、世代によって異なる教育観や学び方がどのように形成されてきたのか、その背景を紐解きながら、世代間のギャップを理解し、より良い相互理解を築くためのヒントを探ります。
世代ごとの教育観・学び方の背景
世代によって教育観や学び方が異なるのは、社会の構造、経済状況、教育制度、そして利用できる情報伝達手段が大きく変化してきたためです。
読者ペルソナ世代(概ね50代後半以上を想定)
この世代の多くは、高度経済成長期からバブル経済期にかけて、あるいはその後の就職氷河期前夜といった社会情勢の中で教育を受け、社会に出ました。
- 時代背景: 終身雇用が一般的で、企業内でのキャリアパスが比較的明確でした。情報はテレビ、新聞、書籍が中心で、学校の先生や先輩など、権威ある情報源が重視されました。競争が激しく、大量の知識を正確に記憶し、効率よく問題を解く能力が求められる教育が主流でした。
- 教育観・学び方の特徴:
- 詰め込み式、反復重視: 基本となる知識や型を徹底的に反復して身につけることが重視されました。
- 権威ある情報源への信頼: 教科書、参考書、教師、上司といった、確立された情報源からの学びが中心でした。
- 体系的な知識の習得: 物事を順序立てて、体系的に学ぶことが得意とされます。
- 経験則の重視: 実体験や先輩からの口伝による学び、いわゆる「見て覚えろ」「背中を見て育て」といった徒弟制度的な教育も少なくありませんでした。
- 集団行動と協調性: 学校教育や職場において、集団としての規律や協調性が重んじられました。
若い世代(概ね20代~30代を想定)
インターネット、スマートフォン、SNSが当たり前に存在する情報化社会、グローバル化が進み、変化が激しい時代を生きています。雇用形態も多様化し、予測困難な未来を生き抜く力が求められています。
- 時代背景: 情報が氾濫し、誰もが発信者・受信者になれる社会です。テクノロジーの進化が速く、新しいツールや情報に常に対応していく必要があります。画一的なキャリアパスではなく、個人のスキルや経験を活かした多様な働き方が可能になっています。
- 教育観・学び方の特徴:
- 個別最適化、探求型: 自分の興味や目的に合わせて、多様な情報源から必要な情報を主体的に探し出し、学びを進めることを得意とします。
- 情報収集力と判断力: インターネット検索、SNS、動画サイトなど、様々なツールを駆使して情報を収集し、その真偽や有用性を判断する力が身についています(ただし、玉石混交の情報を見分ける難しさもあります)。
- 実践とアウトプット重視: 知識をインプットするだけでなく、実際に試してみたり、SNSなどで自分の考えを発信したりするアウトプットを通して学ぶことを好む傾向があります。
- 効率性とタイパ(タイムパフォーマンス): 短時間で効率よく情報を得たり、スキルを習得したりすることを重視します。動画による解説や、要点がまとめられた情報を好む傾向があります。
- 多様な価値観と協働: 多様なバックグラウンドを持つ人々との交流や、オンライン上でのコミュニティ活動を通して、共に学び、創造することに慣れています。
世代間ギャップが生じる具体的な場面と背景
これらの違いは、職場や家庭で以下のような形で現れることがあります。
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職場での指導・育成:
- 上の世代:「まずは基本の座学から」「OJTで先輩のやり方を見て覚えなさい」「まずは紙で資料を読め」
- 若い世代:「ネットで調べた方が早い」「マニュアルや動画はないですか?」「まず自分で試させてほしい」「分からないことはその都度質問したい」
- 背景: 上の世代は体系的な知識伝達と経験則を重視しますが、若い世代は必要な情報を必要な時に効率よく得るデジタルネイティブな学習スタイルに慣れています。また、分からないことをすぐに質問することに抵抗が少なく、フィードバックを求める頻度が高い傾向があります。
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家庭での学習や進路への関わり:
- 上の世代:「良い学校に入るために勉強しなさい」「〇〇の資格を取っておくと安定する」「私たちの頃は塾に通うのが普通だった」
- 若い世代・その親世代(場合による):「自分の興味のある分野を深く学びたい」「資格より実践スキルが大事」「オンライン教材や自宅学習で十分」
- 背景: 上の世代は、過去の成功体験や安定志向に基づいたアドバイスをしがちです。一方、若い世代は変化の激しい社会で、従来のレールが通用しないことを肌で感じており、自身の興味や個性を重視した学び方やキャリアパスを模索しています。
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自身の学び直し・スキルアップ:
- 上の世代:「セミナーや研修に参加しよう」「関連書籍を買い集めて勉強する」
- 若い世代:「オンライン講座(MOOCsなど)を受講する」「YouTubeの解説動画を見る」「SNSで情報交換する」「プログラミングなど実践的なスキルを独学で学ぶ」
- 背景: 情報収集手段や学習ツールの多様化が背景にあります。オンラインで安価にあるいは無料で質の高い教育コンテンツにアクセスできるようになったことで、学び方の選択肢が大きく広がりました。
相互理解を深め、経験を伝えるためのヒント
世代間の教育観・学び方の違いは、対立の原因ではなく、お互いから学び合う機会と捉えることができます。以下に、相互理解を深め、自身の経験や価値を新しい世代に効果的に伝えるためのヒントを挙げます。
- 違いを「多様性」として受け入れる: どちらの学び方や教育観が優れている、間違っているという視点ではなく、「時代背景に適応した結果の多様性である」と理解することから始めましょう。相手の学び方や考え方を頭ごなしに否定せず、「なぜそのように考えるのだろう?」と問いかける姿勢が大切です。
- 背景にある「目的」を共有する: 表面的なやり方の違いに囚われず、「最終的に何を目指しているのか」「この仕事(学習)を通して何を達成したいのか」といった共通の目的に焦点を当てて話し合うことが有効です。目的が共有できれば、そこに至るまでの多様なアプローチを認めやすくなります。
- 相手の「学び方」を理解し、尊重する: 若い世代が動画やオンラインでの情報収集を好むのであれば、そうしたツールを活用した情報提供や指導を検討するのも一つの方法です。彼らの得意な学び方を理解し、そこに寄り添うことで、メッセージが届きやすくなります。
- 経験は「ストーリー」として伝える: 自身の経験や培ってきた知識は、単に「昔はこうだった」と結論だけを伝えるのではなく、当時の社会背景や、なぜその考え方や方法に至ったのかといった「ストーリー」として語ることで、若い世代にとっての学びや気づきにつながりやすくなります。具体的なエピソードは、抽象的なアドバイスよりも記憶に残り、共感を呼びます。「あの時、こんな失敗をして、だからこそこの点に気をつけるようになったんだ」といった語りかけは、価値観の違いを超えて響くことがあります。
- 「教える側」も学び続ける姿勢を持つ: 新しいテクノロジーや学び方について、若い世代から教えてもらうという謙虚な姿勢を持つことも重要です。共に学ぶ姿勢を示すことで、信頼関係が深まり、お互いにとってより豊かな学びの機会が生まれます。彼らの情報収集力やツールの活用法から学ぶことも多いはずです。
- 共通の「成功体験」を作る: 世代を超えて協力し、一つの課題を解決したり、目標を達成したりする経験を共有することは、相互理解を深める最も強力な方法の一つです。それぞれの世代の得意な学び方やスキルを持ち寄り、成功体験を積み重ねることで、「違い」が「強み」へと変わっていくことを実感できるでしょう。
まとめ
世代によって教育観や学び方が異なるのは、それぞれの世代が生きてきた社会や環境が大きく影響しているためです。この違いを理解することは、職場の育成、家庭でのコミュニケーション、そして自身の学び直しにおいても非常に重要です。
表面的なやり方の違いに戸惑うのではなく、その背景にある価値観や目的を理解しようと努めること。そして、自身の豊かな経験をストーリーとして語り、新しい世代の学び方を尊重し、共に学び続ける姿勢を持つこと。これらが、世代間の壁を越え、より深い相互理解を築くための鍵となります。
この記事が、世代間の「教育観・学び方」の違いを理解し、建設的な関わり方を考えるための一助となれば幸いです。