世代で異なる「学び続けること」への価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント
はじめに:変化の時代における「学び」の重要性
現代社会は、技術革新の急速な進展、経済構造の変化、価値観の多様化など、かつてないスピードで変化しています。このような時代において、新しい知識やスキルを習得し、「学び続けること」の重要性がますます高まっています。企業ではリスキリングやアップスキリングが推進され、個人レベルでも、自身のキャリアや生活を豊かにするために学びへの関心が高まっています。
しかし、「何を、どのように学ぶか」「そもそも学び続けることにどれほどの価値があるか」といった「学び」に関する価値観は、世代によって異なると感じられる方もいらっしゃるかもしれません。職場や家庭で、若い世代の意欲的な学びの姿勢や、自身の学び方との違いに戸惑いを感じることもあるでしょう。
この記事では、世代ごとの「学び続けること」への価値観の違いに焦点を当て、その背景にある時代状況や社会構造を考察します。そして、この違いを理解し、世代間でより良く相互理解を深め、自身の経験を新しい世代に伝えていくためのヒントを探ります。
世代が異なる「学び続けること」への価値観
私たちは皆、それぞれの時代に合った教育を受け、社会経験を積んできました。それが、「学び」に対する考え方や価値観の基盤を形成しています。主な世代における「学び続けること」への価値観の傾向を見てみましょう。
バブル期入社世代〜氷河期世代(概ね50代半ば以上)の傾向
この世代が社会に出た頃は、終身雇用制度が一般的で、企業内でのOJT(On-the-Job Training)や集合研修が主な学びの場でした。キャリアは会社が用意してくれるものであり、個人が積極的に外部で学ぶ必要性は、一部の専門職を除いてそれほど強くありませんでした。
この世代にとっての「学び」は、 * 形式的・体系的なもの: 学校教育や企業の研修など、ある程度定まった形式での学びを重視する傾向があります。 * 仕事に直結するもの: 基本的には業務遂行に必要な知識やスキルを習得するものであると考えがちです。 * 経験による学び: 長年の実務経験や職場の人間関係を通じた非公式な学びも非常に重視されます。 * 紙媒体や対面: 情報収集や学びの方法として、書籍や研修会、先輩からの指導など、紙媒体や対面でのやり取りに慣れています。 * 一度学べば十分: 若い頃にしっかり学べば、その知識で長く仕事ができるという意識が根強い場合もあります。
新しい知識やスキルの習得に対しては、必要性を感じつつも、デジタル技術への苦手意識や、改めて学生のように学ぶことへの心理的なハードルを感じる方もいらっしゃるかもしれません。
デジタルネイティブ世代(概ね30代以下)の傾向
この世代は、物心ついた頃からインターネットやデジタルデバイスが身近にあり、情報や学びの機会が爆発的に増えた環境で育ちました。学校教育でも探究学習などが重視され、自ら情報を見つけ、学ぶ機会が多くありました。
この世代にとっての「学び」は、 * 多様でカジュアルなもの: オンライン動画、SNS、ブログ、専門サイトなど、様々な媒体からカジュアルに情報収集し、学ぶことに抵抗がありません。 * 自己成長・自己実現のもの: 仕事のためだけでなく、趣味や関心、自己成長のために積極的に学びます。資格取得よりも実践的なスキル習得を重視する傾向もあります。 * 実践・アウトプット: 学んだことをすぐに試したり、作品を作ったり、SNSで発信したりと、実践やアウトプットを通じて学ぶことを得意とします。 * スキマ時間の活用: 通勤時間や休憩時間など、細切れの時間を活用してスマートフォンなどで手軽に学びます。 * 常にアップデートするもの: 技術や情報が常に更新されることを前提としており、学び続けることは当たり前であるという意識が強いです。
新しい技術や情報への適応力が高く、フットワーク軽く多様な学びの機会を探求します。
価値観の違いが生まれる時代背景
こうした世代間の価値観の違いは、個人の性格だけでなく、それぞれの世代が育ち、社会経験を積んできた時代背景に深く根差しています。
- 経済構造の変化: 安定成長期から低成長期、そしてVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代へ。かつての企業中心・安定志向の社会から、個人が主体的にキャリアを築き、変化に対応していく必要性が高まりました。これにより、企業に依存しない個人の「学び」の重要性が増しました。
- 技術革新: インターネット、スマートフォン、高速通信の普及は、情報収集の方法やコミュニケーション手段、そして学びのスタイルを劇的に変化させました。オンライン学習プラットフォームやMOOCs(大規模公開オンライン講座)の登場は、時間や場所を選ばずに専門的な内容を学ぶことを可能にしました。
- 教育制度の変化: 受験競争の激化や、知識詰め込み型から思考力・判断力・表現力を重視する教育へのシフトも、学びへの意識や方法に影響を与えています。
上の世代は、社会構造が比較的安定しており、学びは主に既存の枠組みの中で行われるものだった時代に育ちました。一方、若い世代は、変化が常態化し、情報が氾濫する中で、自ら必要な情報を選び取り、柔軟に学ぶことを求められる時代に育っています。
世代間の相互理解を深めるために:学びと経験の橋渡し
「学び続けること」への価値観の違いは、決してどちらかが正しい、間違っているという問題ではありません。それぞれがその時代の社会に適応するために培ってきた知恵であり、価値観です。この違いを理解し、相互に尊重することが、世代間の相互理解を深める第一歩となります。
1. 互いの「学び方」に関心を持つ
上の世代は、若い世代のオンラインや動画を活用した学び方、スキマ時間の活用法などに目を向けてみましょう。意外な効率性や手軽さに気づくかもしれません。また、なぜ彼らが特定のスキルを学ぶことに価値を見出しているのか、その背景にある彼らのキャリア観や社会への認識を理解しようと努めましょう。
若い世代は、上の世代が長年の経験や対面でのやり取りからどのように知識やノウハウを吸収してきたのか、また、一度体系的に学んだ知識をどのように実践に応用してきたのかに関心を持つことが重要です。形式張った学びや、一見非効率に見えるやり方にも、積み重ねられた知恵や深い理解があることを知るでしょう。
2. 「経験」を新しい学びの形として伝える
上の世代が持つ豊富な経験は、若い世代にとってかけがえのない財産です。「昔はこうだった」と一方的に教えるのではなく、若い世代が関心を持つテーマや課題と結びつけて伝える工夫が必要です。
- ストーリーテリング: 具体的なエピソードや失敗談を交えながら、なぜその学びや経験が重要だったのかを物語として語りましょう。
- 対話形式: 一方的に話すのではなく、若い世代からの質問を受け付け、彼らの疑問や考えを引き出す対話形式を取り入れましょう。
- デジタルツールの活用: 必要であれば、オンラインミーティングツールや共有ドキュメントなどを活用し、若い世代が慣れた方法で情報共有するのも有効です。
- 共通の目標設定: 世代を超えて一緒に学ぶ、あるいは共通の課題解決に取り組む中で、経験と新しい知識を融合させる機会を作りましょう。例えば、新しいツールの使い方を若い世代に教わりつつ、そのツールを使って過去の経験を整理・共有するなどです。
経験は、最も実践的で生きた学びの源泉です。それを新しい世代がアクセスしやすい形で「再パッケージ」し、提供することで、経験の価値がより伝わりやすくなります。
おわりに:共に学び、成長する社会を目指して
「学び続けること」への価値観の違いは、世代間の壁ではなく、互いの理解を深め、補い合うための機会となり得ます。上の世代が培ってきた経験知と、若い世代が持つ新しい情報への感度や柔軟な学び方が融合することで、組織全体や社会はより強く、豊かになるはずです。
変化の激しい時代だからこそ、世代を超えて互いの学びを尊重し、それぞれの強みを活かしながら、共に学び、成長していく姿勢が求められています。この記事が、皆様と周りの方々との世代間相互理解の一助となれば幸いです。