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世代で異なる「感謝・称賛の伝え方・受け止め方」の価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント

Tags: 世代間ギャップ, 価値観, 職場, 相互理解, 感謝・称賛

職場や家庭での「ありがとう」や「すごいね」に感じる違和感

日々の生活や職場で、誰かに感謝の気持ちを伝えたり、相手の良いところを褒めたりする場面は多くあります。しかし、時として、自分が伝えた感謝や称賛が相手にうまく伝わっていないように感じたり、逆に相手からの感謝や称賛に対して「どう反応すれば良いのだろう」と戸惑ったりすることはないでしょうか。特に、自分より若い世代や、あるいは自分より年上の世代との間で、こうした小さなコミュニケーションの齟齬を感じることがあるかもしれません。

こうした違和感は、単なる個人的な相性の問題ではなく、多くの場合、世代によって異なる「感謝や称賛の伝え方・受け止め方」に関する価値観が背景にあります。それぞれの世代が育ってきた時代背景によって、何に対して感謝・称賛を感じるか、それをどのように表現するのが適切だと考えるか、そしてどのように受け止めるかには違いが見られるのです。

この記事では、世代ごとの感謝・称賛に関する価値観やその背景にある時代背景を掘り下げ、世代間の違いを理解し、よりスムーズで心温まるコミュニケーションを築くためのヒントを探っていきます。

世代によって異なる感謝・称賛の価値観とその背景

世代ごとの感謝や称賛に関する価値観は、その時代に培われた社会全体の雰囲気や慣習、さらにはテクノロジーの発展など、様々な要因によって形成されています。ここではいくつかの世代に焦点を当てて見ていきましょう。

かつての「美徳」とされた感謝・称賛の形(概ね50代以上の方々の価値観形成期)

この世代の多くの方々が社会に出た、あるいは成長期を過ごした時代は、終身雇用や年功序列といった日本型雇用システムが機能し、組織への貢献や集団内の調和が重んじられました。仕事は「やって当たり前」「給料をもらっているのだから当然」という意識が比較的強く、個人の成果や努力に対する率直な言葉での称賛は、むしろ気恥ずかしいもの、あるいは「お世辞」と捉えられる向きもありました。

感謝についても同様に、言葉で頻繁に伝えるよりも、態度や行動、例えば一緒に汗を流すこと、困っている時にさりげなく助けること、あるいは飲みにケーションで労をねぎらうことなどが重視されました。人前で褒められることは謙遜するのが美徳とされ、陰で「頑張っているね」と評価されることに価値を感じる方も多かったかもしれません。上司から部下への感謝や称賛は、叱咤激励や指導の中に織り交ぜられることもあり、ストレートなポジティブフィードバックは少なかったと言えます。

変化する社会と個人の台頭(概ね30代後半〜40代にかけての価値観形成期)

バブル崩壊後の経済の低迷、成果主義の導入、雇用の流動化などが進んだ時代に成長した世代では、従来の集団主義的な価値観に加え、個人の役割や成果への意識が高まってきました。仕事における貢献を正当に評価してほしい、自身の努力を認めてほしいという欲求が強まります。

感謝や称賛についても、言葉でのフィードバックが重要視されるようになります。「言わなくても分かるだろう」ではなく、具体的な行動や成果に対して「〇〇をしてくれてありがとう、助かりました」「この点、すごく良いね」といった明確な言葉で伝えられることに価値を感じる傾向があります。ただし、過度な称賛や根拠のない褒め言葉に対しては、逆に不信感を抱くこともあります。感謝や称賛の表現方法も多様化し、メールやチャットでの簡潔なメッセージなども一般化していきます。

デジタルネイティブ世代における感謝・称賛(概ね30代前半以下の方々の価値観形成期)

インターネットや携帯電話、そしてスマートフォンの普及とともに育ったこの世代は、幼い頃からSNSなどを通じて「いいね」やコメントといった形で、他者からの反応や承認をリアルタイムに得やすい環境に慣れ親しんでいます。そのため、自分の投稿や行動に対するポジティブなフィードバックを求める傾向が強く、感謝や称賛も、具体的かつ迅速に、そしてオープンに行われることに価値を感じやすいと言えます。

彼らにとっては、ささいなことでも「ありがとう」「助かります」といった言葉での感謝や、努力や工夫に対する「すごい」「さすがですね」といった称賛は、モチベーションに直結する重要な要素です。形式的な儀礼よりも、本音で共感し、ポジティブな感情を表現することを好みます。また、絵文字やスタンプなどを活用して感情豊かに感謝や称賛を伝えることも自然に行います。上司や先輩からのストレートな褒め言葉やフィードバックを期待する一方、形式的・定型的すぎる表現には物足りなさを感じることもあります。

世代間ギャップが生まれる理由と相互理解のためのヒント

このように、世代によって感謝や称賛に対する「当たり前」が異なります。上の世代が「言わなくてもわかるはず」「態度で示すものだ」と考えていても、若い世代は「言葉で伝えてくれないと分からない」「認めてもらえていないのでは」と感じるかもしれません。逆に、若い世代が気軽に「ありがとうございます!」と頻繁に伝えることに、上の世代は「そこまで大げさに言わなくても」「軽いな」と感じることもあるでしょう。

こうしたギャップは、意図せずとも人間関係のすれ違いやモチベーションの低下を招く可能性があります。相互理解を深めるためには、まず「自分にとっての当たり前は、相手にとっての当たり前ではない」という認識を持つことが第一歩です。

具体的には、以下の点を意識してみてはいかがでしょうか。

  1. 相手の「価値観の背景」に思いを馳せる: なぜ相手がそのような表現をするのか、あるいはそのような反応をするのか。その世代が育った社会環境や教育、経験などを想像してみましょう。「この世代は、言葉より行動で示すことを重視してきたのかな」「SNSで育ったから、ポジティブな反応を日常的に求めているのかな」など、背景への理解を深めることで、相手の行動を否定的に捉えるのではなく、客観的に受け止めやすくなります。
  2. 表現方法の「違い」を理解する: 感謝や称賛の形は、言葉だけでなく、ねぎらいの言葉、食事をご馳走する、困っている時に手伝う、仕事を手伝う、適切な評価を行う、昇給・昇格といった目に見える報酬など、様々な形があります。相手の世代がどのような表現を「感謝」「称賛」と捉える傾向があるのかを知り、自分の表現方法を少し調整してみることも有効です。
  3. 言葉で伝えることの重要性を再認識する: 特に若い世代に対しては、具体的な行動に対する感謝や称賛を、言葉で明確に伝えることを意識してみましょう。「〇〇さんが以前作った資料が役に立ったよ、ありがとう」「△△さんの今回のプレゼン、データ分析が論理的で素晴らしかったね」のように、何に対する感謝・称賛なのかを具体的に伝えることで、相手は自身の貢献を認識しやすくなります。頻繁に伝えることも、効果的な場合があります。
  4. 「経験を伝える」際の視点: ご自身の経験から、「努力が報われた時の喜び」「感謝された時の嬉しさ」といった本質的な感情は、世代を超えて共通する部分があるはずです。こうした感情そのものを伝えることは、若い世代にも共感されやすいかもしれません。ただし、「私たちの時代はこれくらいやっても褒められなかった」といった過去の経験を一方的に押し付けるのではなく、「私は〇〇な時に感謝されて、とてもやりがいを感じた経験があるよ。君はどう?」のように、自分の経験を話しつつ、相手の考えや感じ方にも耳を傾ける姿勢が重要です。
  5. 素直に尋ねてみる勇気を持つ: もし相手の感謝や称賛の表現方法に戸惑ったり、逆に自分の表現が伝わっているか不安になったりした場合は、穏やかに「今の、こういうことかな?」「こうしてもらえると助かるんだけど、どうかな?」のように、相手の意図や感じ方を尋ねてみることも一つの方法です。コミュニケーションは双方向ですので、一方的な推測でなく、互いに確認し合うことで誤解を防げます。

まとめ:違いを理解し、歩み寄ることの価値

世代によって異なる「感謝・称賛の伝え方・受け止め方」の価値観は、それぞれの時代背景に根差したものです。どちらが良い・悪いというものではなく、多様な価値観があることを理解することが、世代間相互理解の第一歩となります。

すぐに全てを理解し合うことは難しくても、相手の価値観の背景にあるものに想像力を働かせ、表現方法の違いがあることを認め、そして少しずつコミュニケーションの方法を調整していく努力を続けることが、より良い人間関係を築く鍵となります。

感謝や称賛は、人間関係や組織において、潤滑油となり、モチベーションを高める大切な要素です。世代間の違いを乗り越え、互いに心地よく感謝し合い、称賛し合える関係性を築くことで、職場も家庭も、より温かく、生産的な場となることでしょう。この記事が、その一助となれば幸いです。