世代で異なる「環境問題・サステナビリティ」への価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント
はじめに:環境問題・サステナビリティへの意識、世代でどう違う?
近年、「環境問題」や「サステナビリティ」といった言葉を聞く機会が増えました。特に若い世代の方々が、エコバッグやマイボトルを日常的に利用したり、環境に配慮した企業の商品を選んだりする様子を見て、「私たちの時代とは少し違うな」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
職場や家庭で、世代によって環境問題への関心度や捉え方が異なり、それがコミュニケーションのちょっとしたズレにつながることもあるかもしれません。例えば、「なぜそこまで徹底するのだろう?」と感じたり、「かつて我々がしていた節約とどう違うのだろう?」と疑問に思ったりすることもあるでしょう。
この記事では、世代によって環境問題やサステナビリティに対する価値観が異なる背景を探り、それぞれの世代がどのような時代の中でその価値観を育んできたのかを解説します。そして、この違いを理解し、相互の考え方を尊重しながら、より良い関係を築くためのヒントを提供いたします。
世代による環境問題・サステナビリティへの価値観の違い
環境問題やサステナビリティ(持続可能性)に対する意識や行動は、育ってきた時代や社会状況によって異なる傾向が見られます。もちろん、世代内にも多様な考え方があり、一概には言えませんが、一般的な傾向として捉えてみましょう。
-
シニア・ミドル世代(概ね50代以上):
- 高度経済成長期やその後の公害問題などを経験し、「公害は良くないもの」「環境を守ることは重要」という基本的な認識を持っています。
- 一方で、生活の豊かさや経済の発展を重視する時代背景が長く続いたため、環境対策がコスト増や不便さにつながる側面には慎重になる傾向も見られます。
- 日常的な節約(節電、節水、物を大切に使うなど)は行ってきましたが、それは主に経済的な理由や「もったいない」精神に基づくことが多く、地球規模の環境課題としての「サステナビリティ」という概念とは結びついていない場合もあります。
- 企業に対しては、安定した製品供給や雇用の維持などを重視する傾向があり、環境対策は企業の社会貢献の一部と捉えることが多いかもしれません。
-
若い世代(概ね30代以下):
- 幼少期から地球温暖化問題やごみ問題などが教育され、環境問題が人類共通の、そして喫緊の課題であるという認識が強い傾向があります。
- SDGs(持続可能な開発目標)など、国際的な目標を通じてサステナビリティの概念に馴染んでいます。企業や社会全体が環境課題に取り組むべきだと強く感じています。
- 自身の消費行動が環境に与える影響を意識し、エコフレンドリーな商品を選んだり、不要な消費を避けたりする傾向があります。シェアリングサービスなども抵抗なく利用します。
- SNSなどで環境問題に関する情報が共有されやすく、個人の行動が社会に影響を与える可能性を感じています。
- 企業を選ぶ際にも、経済的な側面に加えて、環境や社会への配慮ができているか(倫理的な側面)を重視する傾向が見られます。
このように、両世代ともに「環境は大切」という意識は共通しているとしても、その理由、優先順位、具体的な行動、そして企業や社会に期待することには違いが見られるのです。
価値観形成の背景にある時代背景
なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。それぞれの世代が社会に出たり、価値観を形成したりした時代の背景に目を向けてみましょう。
-
高度経済成長からバブル崩壊、そして失われた時代: シニア・ミドル世代が社会人となった、または働き盛りの時期は、日本経済が急成長し、物質的な豊かさを追求する時代でした。高度成長の負の側面として公害問題も顕在化しましたが、基本的には経済発展が優先され、「豊かさ=消費や所有」という価値観が一般的でした。バブル崩壊後は、経済的な安定や節約が重視されるようになり、「もったいない」という精神が生活の中に根付いていきました。この「もったいない」は、資源の有効活用という点で現代のサステナビリティと共通する部分もありますが、出発点は経済性や倫理観であることが多いでしょう。
-
情報化社会の進展とグローバル化、そして環境問題の深刻化: 若い世代が成長し、社会に出る頃には、インターネットが普及し、世界中の情報に容易にアクセスできるようになりました。地球規模での環境問題(地球温暖化、生物多様性の損失など)が国際的にクローズアップされ、学校教育でも積極的に取り入れられるようになりました。SNSを通じて、国内外の環境活動や企業の取り組みに関する情報がリアルタイムで共有されるようになり、個人の意識や行動が社会に影響を与えるという感覚が生まれやすくなりました。また、経済的な豊かさが当然のものとなり、それ以外の価値、例えば社会貢献や倫理性を重視する傾向が強まったことも、サステナビリティへの意識を高める要因となっています。
このように、それぞれの世代は全く異なる社会経済状況、情報環境、そして教育を受けてきました。これらの経験が、環境問題やサステナビリティに対する価値観の土台を形作っているのです。
世代間ギャップを乗り越え、相互理解を深めるために
環境問題・サステナビリティに関する価値観の違いを理解することは、世代間の相互理解を深める第一歩です。では、具体的にどのように関われば良いのでしょうか。
-
相手の価値観の背景にある時代を知ろうとする: まず、相手の考え方が、その人が生きてきた時代や経験に基づいていることを理解しようと努めることが重要です。「なぜそう考えるのだろう?」と疑問に思ったときは、その背景にある時代のできごとや社会状況に思いを馳せてみてください。知的好奇心を持って互いの過去を紐解くことで、理解が深まります。
-
「なぜ」を問いかけ、耳を傾ける: 若い世代が環境に配慮した行動をとる理由を尋ねてみてください。「なぜマイボトルを使うの?」「その商品を選んだのはどうして?」といった素朴な疑問から会話が生まれます。そして、その答えに耳を傾けてください。彼らがどのような情報に触れ、何を大切にしているのかが見えてくるでしょう。同様に、ご自身の「もったいない」の精神や節約の経験が、どのような背景から生まれたのかを語ってみるのも良いでしょう。
-
共通の目標を見つける: 環境問題は、世代を超えて共に取り組むべき課題です。職場であれば、ペーパーレス化、節電・節水といった身近な取り組みから始めてみるのはいかがでしょうか。「会社のコスト削減にもつながるし、環境にも良いね」といった共通の目標を設定することで、世代間の協力が生まれやすくなります。
経験を伝えるヒント:「もったいない」とサステナビリティ
「かつて自分たちが経験してきたこと、大切にしてきたことを、新しい世代にどう伝えれば良いのだろうか?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。特に「もったいない」精神は、資源を大切にするという点で現代のサステナビリティと通じるものがあります。
経験を伝える際は、一方的に「私の時代はこうだった」と押し付けるのではなく、「こういう時代背景の中で、私たちは物を大切にすることが当たり前だと考えていたんだ」「電気や水が貴重だった時代に、こういう工夫をしていたよ」といった、具体的なエピソードや当時の状況を交えて話すと、若い世代も興味を持って耳を傾けやすくなります。
また、若い世代が持つ新しい知識や技術(例えば、再生可能エネルギーやリサイクル技術など)について教えてもらうという姿勢も大切です。互いに学び合うことで、経験と新しい知識が融合し、より広い視野で環境問題に向き合うことができるようになります。
おわりに:世代を超えて、共に未来を考える
環境問題やサステナビリティへの価値観の違いは、単なる世代間の対立ではなく、異なる時代を生きたことによる自然な結果です。それぞれの価値観には、その時代を生き抜く中で培われた知恵や工夫が詰まっています。
互いの価値観の背景にある時代を知り、対話を通じて理解を深めること。そして、自身の経験を伝えつつ、新しい世代から学ぶ姿勢を持つこと。これらが、世代を超えて環境問題という共通の課題に向き合い、より良い未来を共に築いていくための重要な鍵となるでしょう。この記事が、その一助となれば幸いです。