世代で異なる「組織への関わり方・帰属意識」の価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント
はじめに:職場で感じる「組織への意識」のギャップ
職場で若い世代と接する中で、「どうも組織や会社に対する考え方が違うな」「自分たちが若い頃とは組織への関わり方が大きく変わったな」と感じることはないでしょうか。
かつては「会社は家族」「終身雇用が当たり前」「会社のために働く」といった価値観が一般的だった時代があります。しかし、現代では転職も一般的になり、個人のキャリアやワークライフバランスを重視する傾向が強まっています。こうした変化は、単に個人の性格や怠惰さから来るものではなく、それぞれの世代が生きてきた時代背景や社会構造の変化が大きく影響しています。
この記事では、世代間で異なる「組織への関わり方」や「帰属意識」の価値観がなぜ生まれたのか、その背景を解説します。そして、この違いを理解し、職場の世代間相互理解を深めるための具体的なヒントや、自身の経験を伝える際のアプローチについて考えていきます。
終身雇用・年功序列が育んだ上の世代の「組織への帰属意識」
私たちの世代、あるいはそれよりも上の世代は、高度成長期からバブル期にかけて、終身雇用と年功序列が当然とされる社会で育ち、働いてきました。企業は社員の生活を生涯にわたって保障し、社員はその代わりに会社への忠誠心や貢献意識を強く持つことが求められました。
この時代、会社は単なる働く場所ではなく、多くの人々にとって生活の基盤であり、自己実現の場であり、人間関係の中心でもありました。社内での人間関係が非常に濃密であったり、会社の行事に積極的に参加したりすることも一般的でした。
このような時代背景は、以下のような価値観を強く育みました。
- 組織への強い一体感と忠誠心: 会社の一員であることに誇りを持ち、会社の成功のために尽力することを是とする考え方。
- 集団目標の重視: 個人の目標よりも、部署やチーム、会社全体の目標達成を優先する傾向。
- 滅私奉公の精神: 会社のためならば、多少の無理や犠牲(長時間労働など)も厭わないという姿勢。
- 社内での人間関係の重視: 仕事だけでなく、飲み会や社員旅行といった機会を通じて、社内の人間関係を深めることの重要性。
もちろん、全ての人がそうであったわけではありませんが、社会全体の雰囲気として、組織への強い帰属意識が称賛され、安定したキャリア形成には不可欠であると考えられていました。
変化の時代を生きる若い世代の「組織への関わり方」
一方、今の若い世代(主にミレニアル世代、Z世代などと呼ばれる世代)が生きてきた時代は、上の世代とは大きく異なります。バブル崩壊後の「失われた時代」に育ち、リストラや企業の倒産を目の当たりにし、終身雇用や年功序列が崩壊していく社会構造を肌で感じてきました。また、インターネットやスマートフォンの普及により、個人が多様な情報にアクセスし、個人間のつながりを容易に持てるようになりました。
このような時代背景は、若い世代の組織への関わり方や価値観に以下のような影響を与えています。
- 「会社より個人」の意識: 会社への忠誠心よりも、自身のキャリア形成、スキルアップ、人間的な成長を重視する傾向。
- ワークライフバランスの追求: 仕事とプライベートを明確に分け、どちらも大切にする考え方。長時間労働を必ずしも美徳としない。
- 流動性への抵抗のなさ: 一つの会社に縛られず、自身のキャリアにとってより良い機会があれば転職することもためらわない。
- フラットな人間関係の志向: 上下関係よりも、お互いを尊重する対等な人間関係を好む。
- 情報のオープンさと納得感: 組織の決定やルールに対し、「なぜそうなのか」という理由や納得感を求める。不明瞭な指示や古い慣習には従いにくいと感じる場合がある。
彼らは、組織を「自身のスキルや経験を活かし、成長するためのプラットフォーム」と捉える傾向があり、そのプラットフォームが自身の求めるものと合わなくなれば、別の場所を探すことに抵抗が少ないと言えます。
世代間ギャップが生まれる具体的なシチュエーション
こうした価値観の違いは、職場で様々な場面で現れます。
- 会議での発言: 上の世代が「組織の方針に従うべき」と考えるのに対し、若い世代は「自分の意見を自由に表明したい」「納得できない点は質問したい」と考える。
- 残業や休日出勤: 上の世代が「会社のためなら当然」と考えがちなのに対し、若い世代は「効率を重視すべき」「定時内に終わらせるのがプロ」「プライベートを優先したい」と考える。
- 会社の飲み会やイベント: 上の世代が「組織の一体感を強める機会」と考えるのに対し、若い世代は「プライベートな時間を削られる」「業務外の強制的な付き合いは避けたい」と感じる。
- 会社への不満や提言: 上の世代が「組織内で解決すべき」「表立って批判すべきでない」と考えるのに対し、若い世代は「SNSなどで発信する」「外部の意見も参考にしたい」と考える場合がある。
これらの違いは、どちらが正しく、どちらが間違っているというものではありません。それぞれが生きてきた社会環境や価値観が反映されているだけなのです。
相互理解のためのコミュニケーションとアプローチ
世代間の「組織への関わり方」に関するギャップを乗り越え、相互理解を深めるためには、以下の点が重要になります。
- 違いの背景を理解しようと努める: 相手の価値観が「なぜ」生まれたのか、その背景にある社会や時代の変化に関心を持つことが第一歩です。彼らの育った環境、経済状況、技術の進化(インターネットやスマホ、SNSの普及)が、どのように今の考え方を形作ったのかを理解しようと努めてください。
- 「どちらが正しいか」の議論を避ける: 価値観に優劣はありません。自分の経験や価値観を押し付けるのではなく、「そういう考え方もあるのだな」と一旦受け止める姿勢が大切です。
- 「共通の目的」に焦点を当てる: 組織への関わり方や働くことへの意識は違えど、多くの場合、組織として達成すべき共通の目標や、個人として成長したいという欲求は共通しているはずです。何のために仕事をしているのか、その仕事がどのように社会や組織に貢献するのかといった、より本質的な部分で共通認識を持つことを目指しましょう。
- コミュニケーションの質を高める:
- 意図や背景を丁寧に説明する: ただ指示を出すだけでなく、「なぜこれが必要なのか」「これを行うことで何につながるのか」といった背景や目的を伝えることで、若い世代は納得感を持ちやすくなります。
- 一方的な指示でなく対話を心がける: 彼らの意見や考えにも耳を傾け、質問しやすい雰囲気を作ります。「どう思う?」「何か困っていることはある?」など、対話を促す問いかけが有効です。
- 彼らの知見やスキルを尊重する: デジタル技術など、若い世代の方が詳しい分野は多々あります。彼らの知識やスキルを認め、敬意を払うことで、信頼関係が築きやすくなります。
自身の経験を新しい世代に伝えるために
鈴木さんのように、これまでの豊富な経験を若い世代に伝えたいと考える方も多いでしょう。しかし、単に「昔はこうだった」と語るだけでは、なかなか響かない場合があります。彼らの価値観に寄り添いながら、経験を効果的に伝えるためのアプローチを考えてみましょう。
- 具体的な「状況」と「学び」を語る: 抽象的な精神論ではなく、「あの時、こういう状況で、こういう問題が起きた。そこで、こう考えて、こう行動したら、こういう結果になった。そこから、自分はこういうことを学んだ」というように、具体的なエピソードとして語ります。
- 成功だけでなく「失敗談」を共有する: 成功談は立派に聞こえますが、失敗談はより人間的で、共感を呼びやすい場合があります。失敗から何を学び、どう乗り越えたのかというプロセスは、若い世代が直面するであろう困難への示唆となります。
- 彼らの「今」と結びつける: 自身の経験が、彼らが現在直面している課題や、これから目指すキャリアにどう繋がるのか、彼らにとってどのような示唆になるのかを意識して話します。「これは、〇〇さんが今取り組んでいるこの課題にも応用できるかもしれないね」「君が将来こういうキャリアを目指すなら、私のこの経験はこういう点で役に立つと思うよ」のように、彼ら自身の文脈と結びつける工夫をします。
- 「教える」ではなく「共に考える」姿勢で: 一方的に知識や経験を授けるという姿勢ではなく、「私の経験はこうだけど、君ならこの状況をどう考える?」「一緒に最善の方法を考えてみよう」といった、共に学び、共に成長する姿勢を示すことが、若い世代には受け入れられやすい傾向があります。
まとめ:違いを知ることが相互理解への第一歩
世代間で「組織への関わり方」や「帰属意識」に違いがあるのは当然のことです。それは、それぞれの世代が異なる時代背景、社会環境、経済状況、技術の進化の中で、異なる価値観を形成してきたからです。
この違いをネガティブに捉えるのではなく、「多様性」として受け止めることが重要です。どちらかの価値観が優れているのではなく、それぞれに良さがあり、学ぶべき点があります。
相手の価値観の背景を理解しようと努め、対話を通じて互いの考えを知り、尊重し合うこと。そして、共通の目標に向かって、それぞれの強みや経験をどのように活かせるかを共に考えること。これが、世代間のギャップを乗り越え、より良い組織、より建設的な人間関係を築くための鍵となるでしょう。
自身の豊かな経験は、必ず若い世代にとって貴重な示唆となります。伝え方を少し工夫することで、きっと彼らの心に響くはずです。互いの価値観を知り、理解を深めることから、未来への第一歩を踏み出しましょう。