世代で異なる「社会貢献・ボランティア」への価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント
はじめに
職場や地域活動、家庭などで、若い世代が社会貢献やボランティアについて語るのを聞いて、「自分たちの頃とは少し違うな」と感じたことはありませんでしょうか。例えば、積極的にNPOに関わる、SNSで社会課題について発信する、あるいは企業のCSR活動に熱心であるなど、その形は多様化しています。
私たちが経験してきた時代と、現在の若い世代が生きる時代では、社会状況や技術が大きく変化しました。この変化が、人々の社会貢献やボランティアに対する価値観にも影響を与えています。この記事では、世代ごとの社会貢献・ボランティアへの価値観の違いに焦点を当て、その背景にある時代背景を紐解きながら、相互理解を深めるためのヒントを探ります。
世代によって異なる社会貢献・ボランティアへの価値観
社会貢献やボランティアと一口に言っても、どのような活動を指すか、なぜそれに取り組むのかといった意識は、世代によって異なる傾向が見られます。
上の世代(概ね50代後半以上の方々)では、社会貢献という意識は、自身の属する組織や地域社会への貢献、あるいは個人的な繋がりを通じたボランティア活動と結びついていることが比較的多いかもしれません。高度経済成長期からバブル期を経て、企業や地域コミュニティへの帰属意識が強く、そこで求められる役割を果たすことや、困っている知人を個人的に支援することなどが、社会貢献の自然な形として捉えられていた時代背景があります。例えば、町内会の役員を引き受けることや、会社の労働組合活動に参加することも、広い意味での社会貢献意識の表れと言えるでしょう。
一方、比較的若い世代、特にデジタルネイティブ世代と呼ばれる方々では、社会貢献の捉え方がより広範で、多様な形をとる傾向が見られます。インターネットやSNSの普及により、国内外の様々な社会課題に関する情報に容易にアクセスできるようになりました。地球温暖化、貧困、人権問題、環境問題など、グローバルな課題への関心が高く、SDGs(持続可能な開発目標)のような世界的な目標にも共感しやすい土壌があります。
彼らは、NPOやNGOへの参加、プロボノ(専門スキルを活かしたボランティア)、クラウドファンディングを通じた資金援助、SNSでの情報拡散や署名活動など、従来の地域活動や所属組織を通じたものとは異なる方法で社会に関わろうとします。また、「良いことをしている」という感覚だけでなく、「自分のスキルや経験を活かしたい」「社会に対して具体的なインパクトを与えたい」といった自己実現や貢献の実感も重視する傾向が見られます。
なぜ価値観に違いが生まれるのか:時代背景の影響
このような価値観の違いは、それぞれの世代が成長し、社会人としての経験を積んだ時代背景と密接に関わっています。
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経済状況と社会構造:
- 上の世代が社会に出た頃は、経済が右肩上がりに成長し、多くの人が組織に属して終身雇用を前提に働くことが一般的でした。企業や地域が「大きな家族」のような役割を果たし、そこへの貢献が社会貢献の一部として認識されやすかったと言えます。
- バブル崩壊後、経済は停滞し、リストラや非正規雇用の増加など、雇用環境が不安定になりました。これにより、組織への絶対的な帰属意識は薄れ、「会社任せ」ではなく、個人として社会とどう関わるか、自らの意思で貢献の道を探る必要性が生まれた世代もいます。
- 近年では、グローバル化や格差の拡大といった課題が顕在化し、持続可能な社会の実現に向けた意識が国際的にも高まっています。若い世代はこうした社会課題が身近にあるものとして認識しやすい環境で育ちました。
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教育の変化:
- 学校教育においても、環境問題や国際理解、キャリア教育といった内容が重視されるようになり、社会課題への関心や、主体的に社会に関わることの重要性を学ぶ機会が増えました。
- 阪神・淡路大震災や東日本大震災のような大規模災害の発生は、ボランティア活動の重要性を広く社会に認識させ、多くの世代がボランティアを身近に感じるきっかけとなりました。
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テクノロジーの発展:
- インターネットとSNSの普及は、情報伝達のあり方を劇的に変えました。遠く離れた社会課題についてもリアルタイムで知ることができ、オンラインで署名したり、寄付をしたり、意見を表明したりすることが容易になりました。これにより、地理的な制約なく、多様な社会貢献の形が生まれました。
- 個人の発信力が高まったことで、「草の根」での啓発活動や小規模なプロジェクトの立ち上げも比較的容易になり、個人が社会に対して直接的な影響を与えられる可能性が広がりました。
相互理解を深めるためのヒント
世代間の社会貢献・ボランティアへの価値観の違いは、どちらかが「正しくて」、どちらかが「間違っている」という類のものではありません。それぞれが育ってきた時代の中で、社会が必要としていた貢献の形や、個人が社会と関わる上で利用できたツールが異なっていた結果です。
相互理解を深めるためには、以下の点を意識することが有効かもしれません。
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相手の「貢献したい」気持ちを尊重する:
- たとえその方法が自分には馴染みのないものであったとしても、相手が「社会を良くしたい」「誰かの役に立ちたい」と考えている気持ちは共通しているはずです。まず、その意欲自体を認め、尊重する姿勢が大切です。
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「社会貢献の形は多様である」と理解する:
- 昔ながらの地域活動への参加も、オンラインでの社会課題に関する情報発信も、NPOでの専門スキルを活かした活動も、企業のCSR活動も、そして個人的な困り事への手助けも、全てが社会をより良くするための貢献です。多様なアプローチがあることを理解し、それぞれの価値を認めることが相互理解に繋がります。
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時代背景を共有し、学ぶ姿勢を持つ:
- なぜ自分の世代が特定の社会貢献の形を重視してきたのか、その時代の課題や社会構造について話してみることは、若い世代が背景を理解する助けになります。同様に、若い世代がどのような社会課題に関心を持ち、どのような方法でアプローチしているのか、話を聞いてみることも重要です。彼らが使うテクノロジーや情報源について質問してみることも、新たな発見に繋がるでしょう。
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共通の目的に焦点を当てる:
- 世代間で方法論は異なっても、「地域を活性化したい」「困っている人を助けたい」「より良い社会を作りたい」といった共通の目的があるはずです。議論が方法論の違いで平行線になる場合は、一度立ち戻って「何を目指しているのか」という共通の目的に焦点を当て直すと、協働の糸口が見つかることがあります。
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自身の経験を「知恵」として伝える:
- 上の世代が長年培ってきた経験や知識は、若い世代が新しい方法で社会課題に取り組む上で貴重な「知恵」となり得ます。例えば、過去に地域で課題解決のために尽力した経験は、現代のオンラインコミュニティでの活動にも応用可能な示唆を含むかもしれません。自身の経験を、一方的な「正解」として提示するのではなく、「私たちはこういう課題に直面し、こういう方法で乗り越えようとした。今の状況に何か参考になるかもしれない」といった形で、対話や共同作業の中で「知恵」として共有していく姿勢が有効です。
まとめ
世代によって異なる社会貢献やボランティアへの価値観は、それぞれの時代背景の中で自然に育まれたものです。これらの違いを単なるギャップとして捉えるのではなく、多様な社会貢献のアプローチが存在することの表れとして理解することが重要です。
お互いの価値観の背景を知り、なぜそのように考えるのか対話を通じて理解を深めることで、世代間の相互理解は進みます。そして、それぞれの世代が持つ強みや経験、新しいアイデアを組み合わせることで、より多くの社会課題に対して、より効果的に貢献できる可能性が生まれるのではないでしょうか。この記事が、世代を超えて社会貢献について語り合い、共に未来を築いていくための一助となれば幸いです。