世代で異なる「仕事のプロセスと結果」の価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント
はじめに:仕事の進め方に見る世代間の価値観の違い
職場において、若い世代との間で仕事の進め方や、何をもって「良い仕事」とするかについて、考え方の違いを感じることはないでしょうか。例えば、資料作成の形式や手順を重視するか、それとも内容の効率性やスピードを優先するか。あるいは、会議での合意形成プロセスに時間をかけるべきか、それとも素早い意思決定で結果を出すことを目指すか。
こうした違いの背景には、単なる個性ではなく、それぞれの世代が育ってきた時代環境によって培われた「仕事におけるプロセスと結果」への価値観の違いがあると考えられます。本記事では、この価値観の違いがなぜ生まれたのか、その背景にある時代要因を探り、世代間の相互理解を深め、共に気持ちよく働くためのヒントを探ってまいります。
各世代の「仕事のプロセスと結果」への価値観と時代背景
世代によって、仕事において「プロセス(過程)」を重視する傾向が強いか、「結果(成果)」を重視する傾向が強いかには、違いが見られることがあります。これはどちらが優れているという話ではなく、それぞれの時代背景が価値観形成に影響を与えているためです。
上の世代(概ね50代以上)に見られる傾向とその背景
安定成長期やバブル期といった、比較的経済が順調に発展し、年功序列や終身雇用が一般的だった時代に社会に出た世代は、仕事のプロセスを重視する傾向が見られることがあります。
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重視する点:
- 決められた手順やルールに則ること
- 丁寧で正確な作業
- 関係者との根回しや合意形成のプロセス
- 組織内の調和や和を保つこと
- 経験に基づいた進め方
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時代背景の影響:
- 安定成長・集団主義: 皆で同じ方向を向き、丁寧に協力して業務を進めることが、組織全体の成長に繋がると考えられていました。個人の突出した成果よりも、集団としてのプロセス管理が重要視される文化がありました。
- 年功序列・終身雇用: 長期的なキャリアを見据え、組織の一員として勤勉に、決められた手順を忠実に守りながら働くことが評価される土壌がありました。プロセスを大切にすることは、組織への貢献や信頼の証でもありました。
- 情報伝達手段: 現在のように情報伝達が容易ではなかった時代において、対面での打ち合わせや詳細な報告書といった丁寧なプロセスが、誤解を防ぎ、確実性を高める上で不可欠でした。
若い世代(概ね30代以下)に見られる傾向とその背景
成果主義や個人の能力が重視される傾向が強まり、IT技術が飛躍的に進化した時代に社会に出た世代は、結果を重視する傾向が見られることがあります。
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重視する点:
- 効率性、スピード
- データに基づいた判断、合理性
- 明確な目標設定と達成
- 費用対効果(コストパフォーマンス)
- 新しいツールや手法の活用
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時代背景の影響:
- 成果主義・競争: 経済の先行き不透明感や転職の一般化により、個人のスキルや実績がキャリアを左右するようになりました。「結果を出すこと」が自己成長や市場価値向上に直結するため、結果への意識が高まりました。
- IT・インターネットの発達: 必要な情報が瞬時に手に入り、多様なツールが使えるようになったことで、従来時間を要したプロセスを省略したり、より効率的な方法を選択したりすることが可能になりました。最短距離で目的を達成する考え方が生まれやすくなりました。
- 不確実性への対応: 社会や技術の変化が速いため、長いプロセスをかけている間に状況が変わってしまうリスクがあります。そのため、まずは迅速に結果を出し、必要に応じて修正するアジャイル的な思考が浸透しやすくなりました。
もちろん、これらはあくまで一般的な傾向であり、個人の性格や職場の文化によっても異なります。しかし、こうした時代背景に基づく価値観の違いがあることを理解することは、世代間のコミュニケーションを円滑にする第一歩となります。
世代間ギャップを解消し、相互理解を深めるヒント
仕事におけるプロセスと結果への価値観の違いから生じる誤解や衝突を避け、相互理解を深めるためには、いくつかの建設的なアプローチがあります。
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相手の「なぜ」に関心を持つ: なぜそのプロセスを重視するのか、なぜその結果を急ぐのか、相手の考えの背景にある意図や目的を尋ねてみましょう。単に「やり方が違う」と片付けるのではなく、「丁寧なプロセスを踏むことで、後工程での手戻りをなくし、最終的な品質を高めたい」「効率的なツールを使って早く結果を出すことで、次の仕事に取りかかりたい」など、互いの合理性や目指すところが理解できることがあります。
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プロセスと結果、双方の重要性を認識する: どのような仕事も、プロセスがなければ結果は生まれませんし、結果が出なければプロセスが無意味になることもあります。丁寧なプロセス管理は品質や信頼性を高め、効率的な結果追求はスピードや生産性を向上させます。どちらか一方だけが正しいのではなく、仕事の性質や状況に応じて、プロセスと結果のどちらに重きを置くべきか、あるいはどのようにバランスを取るべきかを共に考える姿勢が重要です。
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共通の目標を確認し、役割を明確にする: 世代間の価値観の違いは、必ずしも対立するものではありません。例えば、経験豊富な世代が慎重なプロセス管理でリスクを回避し、若い世代が新しい技術を活用して迅速に実行するというように、それぞれの強みを活かすことで、共通の目標達成に向けたより良いアプローチが見つかることがあります。仕事の目的や目標を再確認し、それぞれの役割や期待される貢献を明確にすることで、価値観の違いを強みに変えることができます。
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自身の経験を伝える際の工夫:背景と「なぜ」を語る: 上の世代が若い世代に自身の経験や仕事の進め方を伝える際には、「昔はこうだった」「こうあるべきだ」と一方的に伝えるだけでは、時代背景の異なる若い世代には響きにくいことがあります。 大切なのは、そのプロセスや考え方がなぜ当時の状況で有効だったのか、それによってどのような結果が得られたのか、そしてそこからどのような学びや価値観が生まれたのか、といった背景や意図を具体的に、ストーリーとして語ることです。「この手順を踏んだことで、見落としを防ぎ、最終的に大きなトラブルを回避できた経験がある」「急がば回れというが、この仕事では丁寧に進めた方が結果的に早く済むことが多い」のように、自身の経験から得た価値観や示唆を伝えることで、若い世代も共感しやすくなります。単なる昔話ではなく、現代にも通じる普遍的な仕事への向き合い方や、時代によって変わるもの・変わらないものについて、共に考えるきっかけを提供できます。
結論:価値観の違いを理解し、共に働く未来へ
仕事におけるプロセスと結果への価値観の違いは、それぞれの世代が歩んできた時代の影響を強く受けています。この違いを知ることは、職場や家庭でのコミュニケーションにおいて、相手の言動の背景を理解する助けとなります。
大切なのは、どちらかの価値観が正しいと決めつけるのではなく、互いの違いを認め、その背景にある意図や経験を理解しようと努めることです。プロセス重視の丁寧さと、結果重視の効率性は、相反するものではなく、状況に応じて組み合わせることで、より質の高い、より生産的な仕事へと繋がります。
世代間の価値観の違いを、対立の種ではなく、相互理解と成長の機会と捉え、対話を重ねることで、共に気持ちよく、より良い仕事ができる関係性を築いていくことができるでしょう。