世代で異なる「働きがい・キャリア観」：背景を知り、相互理解を深めるヒント
はじめに：職場で感じる「働きがい」や「キャリア」への価値観のギャップ
職場や家庭で、若い世代との間で「仕事って何のためにするのだろう」「どんな働き方が良いのだろう」といった話題になった際、考え方に違いを感じて戸惑うことはないでしょうか。私たちがある程度経験を重ねてきた世代にとっては当たり前だった仕事への向き合い方やキャリアの考え方が、新しい世代には必ずしも通じない。これは決してどちらかが間違っているということではなく、それぞれの価値観が異なるためです。
この価値観の違いは、「働きがい」や「キャリア観」といった、仕事における内面的な側面や将来への展望において特に顕著に現れることがあります。なぜこのような違いが生まれるのか、その背景にはどのような時代の流れがあるのかを知ることは、世代間の相互理解を深めるための第一歩となります。この記事では、世代ごとの働きがい・キャリア観の特徴と、その背景にある時代要因を解説し、世代間のギャップを乗り越え、建設的な関係を築くためのヒントを探ります。
世代ごとの「働きがい・キャリア観」とその時代背景
世代によって働きがいやキャリアに対する考え方が異なるのは、その世代が社会に出た頃の経済状況、雇用慣行、技術革新、社会の価値観といった様々な時代背景の影響を強く受けているからです。
経験豊富な世代（例：現在の50代後半以上）の価値観
この世代の多くは、高度経済成長期からバブル経済を経て社会人となりました。終身雇用や年功序列といった日本型雇用システムが機能しており、「会社に一生勤め上げる」「組織に貢献することが個人の成長や安定につながる」といった考え方が一般的でした。
- 働きがい: 組織への貢献、仕事そのものの達成感、責任あるポスト、安定した生活の確保に重きを置く傾向がありました。会社は自分のキャリアを保証してくれる場所であり、与えられた仕事を誠実にこなすこと、組織内で昇進していくことが、自身の価値を高めることにつながると考えられていました。
- キャリア観: 一つの会社で長く勤め上げ、段階的に昇進していく「はしごを登る」ようなキャリアパスが主流でした。会社主導のキャリア形成が当たり前であり、個人のキャリアは組織内の役割と強く結びついていました。
- 時代背景: 経済の右肩上がり、雇用が安定していたこと、企業の福利厚生が充実していたことなどが、こうした価値観を形成しました。厳しい受験戦争を経て大企業に入社することが成功モデルとされ、安定こそが幸福につながるという社会全体の空気が背景にあります。
若い世代（例：現在の20代〜30代）の価値観
バブル崩壊後の「失われた世代」や、インターネットが普及し始めた時期に学生・社会人となった世代です。経済の停滞、非正規雇用の増加、企業のリストラを目の当たりにし、雇用や組織に対する見方が変化しました。
- 働きがい: 仕事そのものの「意味」や「やりがい」を重視する傾向が強いです。自己成長、社会貢献、新しいスキルの習得といった内面的な充足を求めます。また、プライベートとのバランス（ワークライフバランス）を重視し、無理な長時間労働を避ける傾向も見られます。会社への貢献はもちろん意識しますが、それが自身の健康や幸福を犠牲にするものであってはならないと考えます。
- キャリア観: 一つの会社にこだわる必要はなく、自身のスキルや経験を活かせる場所を柔軟に選択する傾向があります。転職や副業、フリーランスといった多様な働き方への抵抗が少なく、主体的に自身のキャリアをデザインしようとします。キャリアは会社が決めるものではなく、自分で「つくる」ものだと考えています。
- 時代背景: 経済の低迷による雇用の不安定化、グローバル化、IT技術の爆発的な発展、多様な情報にアクセスできるようになったこと（SNS等）が大きな影響を与えています。不安定な時代だからこそ、会社への依存度を下げ、自分自身の市場価値を高めようとする意識が芽生えました。また、インターネットを通じて多様な価値観に触れる機会が増え、仕事以外の生き方や価値観も重視されるようになりました。
世代間ギャップを乗り越えるためのヒント
このように、経験豊富な世代と若い世代の間には、育ってきた環境や見てきた社会が異なるがゆえに、働きがいやキャリアに対する価値観に違いが生じます。この違いを理解し、相互に歩み寄るためには、いくつかのヒントがあります。
1. 相手の価値観の「背景」に目を向ける
相手の価値観が、決して個人的なわがままや未熟さから来ているのではなく、その世代が経験してきた経済状況、社会の常識、技術環境など、やむを得ない、あるいは必然的な背景によって形成されていることを理解する努力が必要です。例えば、若い世代がワークライフバランスを重視するのは、「滅私奉公」が必ずしも報われる時代ではなくなったことや、健康やプライベートの充実が精神的な安定につながるという情報を多く得ていることなどが背景にあります。「なぜそう考えるのだろう？」と疑問に思ったときに、その「なぜ」を時代背景から考えてみると、相手の言動が違って見えてくることがあります。
2. 一方的な「正解」を押し付けない
自身の経験からくる「これが正しい働き方だ」「こうすればキャリアはうまくいく」といった考えを、相手に一方的に押し付けないことが重要です。自身の価値観は、あくまで自身が育った時代の「正解」や「成功体験」であることを認識し、それが現在の、そして将来の若い世代にもそのまま当てはまるとは限らないという柔軟な姿勢を持つことが大切です。
3. 対話を通じて「共通点」や「互いのメリット」を見つける
価値観が異なるからといって、分かり合えないわけではありません。例えば、「会社や組織を良くしたい」「仕事を通じて成長したい」といった、世代を超えた共通の目標や願いは必ず存在します。対話を通じてこうした共通点を見つけたり、互いの価値観がどのように補完し合い、組織やチームにメリットをもたらすのか（例：経験者の安定性＋若手の柔軟性や新しい視点）を話し合ったりすることで、相互理解は深まります。
4. 経験を「物語」として伝える
自身の豊富な経験を若い世代に伝えたいと考える際、それを「こうすべきだ」という教訓として伝えるのではなく、「私が若い頃はこうだった」「こんな失敗をして、そこからこう学んだ」といった具体的なエピソードや物語として語ってみてはいかがでしょうか。時代背景と自身の経験をセットで語ることで、若い世代は「なるほど、その時代にはそれが重要だったのか」と理解しやすくなります。また、一方的なアドバイスよりも、物語の方が共感や興味を引きやすく、自然な形で学びや気づきを与えることができます。
おわりに：多様な価値観を力に変える
世代間の価値観の違いは、時に戸惑いや摩擦を生む原因となりますが、見方を変えれば、組織や社会に多様な視点やアイデアをもたらす豊かな資源でもあります。経験豊富な世代が培ってきた知恵や粘り強さと、若い世代が持つ柔軟性や新しい技術への適応力が組み合わされば、より大きな力を発揮することができます。
世代間の相互理解は、相手の価値観を一方的に否定するのではなく、その背景にある時代や経験に思いを馳せ、自身の価値観も相対化しながら、対話を通じて共通点や互いの強みを認め合うことから始まります。この記事が、読者の皆様が職場で、あるいは家庭で、多様な世代とより良い関係を築き、相互理解を深めるための一助となれば幸いです。