世代で異なる「組織運営と意思決定」の価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント
職場における「組織運営と意思決定」の世代間ギャップ
日々の業務の中で、組織の方針決定やチーム運営の方法について、若い世代と意見が分かれる経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。長年培ってきた経験に基づく考え方と、新しい世代が重視する価値観との間にギャップを感じることは、決して珍しいことではありません。この違いは、単なる個人の性格や能力によるものではなく、それぞれが生きてきた時代背景や社会環境によって育まれた価値観に根差していることが多いのです。
この記事では、組織運営や意思決定における世代間の価値観の違いに焦点を当て、それがなぜ生まれたのか、その背景にある時代状況を紐解いていきます。そして、このギャップを理解し、相互理解を深めるための具体的なヒントや、ベテラン世代が持つ豊富な経験を新しい世代に効果的に伝えるためのアプローチについて考えていきます。
世代によって異なる「組織運営と意思決定」の価値観
組織をどのように動かし、どのように物事を決定していくかという「組織運営」や「意思決定」に関する考え方は、世代によって異なる傾向が見られます。
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上の世代(概ね50代後半以降)の傾向:
- リーダーシップ: 組織への貢献意識が高く、長年の経験に基づくリーダーシップを発揮することを重視する傾向があります。安定性や継続性を重んじ、慎重な判断を好むことがあります。
- 意思決定: トップダウンや根回しといった、組織内の合意形成を重視する傾向が見られます。情報が限られていた時代において、信頼できる情報源や経験に基づいた判断が重要でした。集団での合議や、一度決めた方針を粘り強く推し進めることを得意とすることがあります。
- 組織運営: 組織内のヒエラルキーや規律を重んじ、組織全体としての調和や秩序を重視する傾向があります。
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下の世代(概ね30代以下)の傾向:
- リーダーシップ: 個人の成長や貢献、フラットな関係性を重視する傾向があります。カリスマ性よりも、共感や納得感を伴うリーダーシップを求めることがあります。変化を恐れず、新しい手法を取り入れることに積極的です。
- 意思決定: 効率やスピードを重視し、データや論理に基づいた客観的な判断を好みます。情報へのアクセスが容易なため、多くの情報を参照し、透明性の高い意思決定プロセスを求める傾向があります。
- 組織運営: 組織内の風通しの良さや、個々の意見が尊重される環境を重視する傾向があります。多様な働き方や価値観を認め合うことに寛容です。
もちろん、これらはあくまで一般的な傾向であり、すべての人がこの通りであるわけではありません。世代内にも多様な考え方を持つ人がいることを理解しておくことが重要です。
なぜ価値観に違いが生まれるのか?その時代背景
このような価値観の違いは、それぞれの世代がどのような社会状況の中で育ち、どのような経験をしてきたかに深く関連しています。
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高度経済成長期・バブル期を生きた世代: この時代は、経済が右肩上がりに成長し、組織に尽くすことで個人の生活も豊かになるという成功体験を共有していました。終身雇用や年功序列が当たり前であり、組織への忠誠心や集団行動が重視されました。情報は限られており、組織のトップや経験豊富な上司の判断に依存する傾向が強かったと言えます。根回しや非公式なコミュニケーションも、組織を円滑に進めるための重要な手法でした。安定した環境下で、長期的な視点での意思決定が奨励されました。
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バブル崩壊後・失われた時代を経てきた世代: 経済の停滞やリストラの増加を経験し、終身雇用神話が崩壊するのを目の当たりにしてきました。組織への過度な期待よりも、自身のスキルアップや市場価値を高めることの重要性を学びました。インターネットやデジタル技術の普及により、情報へのアクセスが飛躍的に向上し、多様な価値観や情報を比較検討することが可能になりました。この経験から、論理的な思考や客観的な根拠に基づいた意思決定、そして変化に迅速に対応できる柔軟性が重視されるようになりました。
世代間のギャップを乗り越え、相互理解を深めるヒント
組織運営や意思決定における世代間の価値観の違いは、しばしば摩擦の原因となり得ますが、互いの背景を理解し、適切なコミュニケーションを取ることで、むしろ組織の強みとなり得ます。
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相手の価値観が生まれた背景に関心を持つ: 相手の考え方を否定するのではなく、「なぜそう考えるのだろう?」と興味を持ち、その人の生きてきた時代や経験に思いを馳せてみましょう。単なる「違い」としてではなく、「時代が生んだ価値観」として捉え直すことで、感情的な対立を避け、冷静に理解しようという姿勢が生まれます。
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対話を通じて「意図」と「根拠」を共有する: 意思決定の場面では、単に結果や結論を伝えるだけでなく、なぜそのように判断したのか、どのような情報や経験に基づいて決定したのか、その「意図」や「根拠」を丁寧に説明することが重要です。特に若い世代は、論理性や透明性を重視する傾向があります。一方、ベテラン世代は、若手に対して、決定の背景にある長年の経験や組織の歴史的な経緯を伝えることで、納得感を促すことができます。双方向の対話を通じて、それぞれの考えのプロセスを共有しましょう。
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共通の目標を確認し、それぞれの強みを活かす: 組織やチームとして達成すべき共通の目標を常に意識することが大切です。目標達成に向けて、それぞれの世代が持つ異なる価値観やスキルがどのように貢献できるのかを話し合います。例えば、ベテラン世代の経験やリスク管理能力と、若手世代の情報収集力や新しい技術への適応力を組み合わせることで、より多角的で質の高い意思決定や組織運営が可能になります。
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「経験談」を「示唆」として伝える工夫: ベテラン世代が持つ豊富な経験は、新しい世代にとって貴重な学びの宝庫です。しかし、単に「昔はこうだった」「俺たちの若い頃は」といった形で語るだけでは、共感を得にくい場合があります。経験談を伝える際は、「過去にこういう状況があった時、こういう判断をした結果、〇〇という学びがあった。今の状況に照らし合わせると、こういう可能性も考えられるかもしれないね」といったように、現代の課題や状況にどう活かせるか、という視点を加えることが効果的です。一方的な「教訓」ではなく、相手に考えるきっかけを与える「示唆」として提示することで、より真剣に受け止めてもらいやすくなります。
まとめ
組織運営や意思決定における世代間の価値観の違いは、それぞれの世代が異なる時代背景の中で培ってきた経験に根差しています。この違いを理解することは、世代間相互理解を深める上で非常に重要です。
違いを否定したり、一方の価値観を押し付けたりするのではなく、なぜそのような考えが生まれたのか、その背景にある時代状況に関心を持ち、対話を通じて互いの意図や根拠を共有すること。そして、共通の目標達成に向けて、それぞれの強みを認め合い、活かしていくこと。これが、世代間のギャップを乗り越え、より強くしなやかな組織を築くための鍵となります。
この記事が、あなたが職場や様々なコミュニティで若い世代との関わりの中で、自身の経験を活かしつつ、より良い関係性を築き、組織を前に進めていくためのヒントとなれば幸いです。