世代で異なる「リーダーシップ観」:背景を知り、相互理解を深めるヒント
はじめに
職場や地域社会において、リーダーシップに対する考え方が世代によって異なるように感じられることは少なくないかもしれません。かつて当たり前とされていたリーダー像が、新しい世代には必ずしも響かない。あるいは、若い世代の考えるリーダーシップの形が、経験豊富な世代には理解しにくい。このような世代間のリーダーシップ観の違いは、組織運営や人間関係において、戸惑いや摩擦を生むこともあります。
しかし、これらの違いは、それぞれの世代が歩んできた時代背景や経験に根ざした自然なものです。この違いを単なる対立として捉えるのではなく、その背景にあるものを理解しようと努めることで、相互理解を深め、より建設的な関係を築くことが可能になります。この記事では、世代ごとのリーダーシップ観の特徴とその背景にある要因を探り、世代間のギャップを乗り越え、相互理解を深めるためのヒントをご紹介します。
世代によるリーダーシップ観の違いとその背景
リーダーシップに対する価値観は、その人が育ち、働き始めた社会の構造や経済状況、そして普及していた情報伝達の手段など、様々な要因によって形成されます。ここでは、比較的上の世代と若い世代に見られる傾向とその背景を概観します。
比較的上の世代に見られる傾向とその背景
高度経済成長期からバブル経済期にかけて社会人となった世代は、終身雇用や年功序列といった安定した雇用慣行の中でキャリアを築いてきました。組織はピラミッド型で、意思決定はトップダウンで行われることが一般的でした。このような環境では、リーダーには「強いリーダーシップ」や「決断力」、そして「部下を引っ張っていく求心力」などが求められました。
- リーダーシップ観の特徴:
- 指示・命令型: リーダーが明確な指示を出し、部下はそれに従うことで成果を出すという考え方。
- 背中で示す: 言葉で多くを語らずとも、自らの行動や仕事ぶりで部下を導く姿勢。
- 権威の尊重: 地位や年功に基づく権威を重視し、リーダーの決定に異を唱えにくい雰囲気。
- 目標達成への厳しさ: 経済成長という共通目標に向け、効率や成果を強く追求する。
- 背景となった時代要因:
- 安定成長期の経済状況と雇用慣行。
- 組織構造の硬直性。
- 情報の非対称性(リーダーや経営層が情報を持つ)。
- 集団で一つの目標に向かうことへの適応。
若い世代に見られる傾向とその背景
「失われた〇十年」と言われる経済の低迷期や、成果主義、多様な働き方の導入、そしてインターネットとスマートフォンの普及による情報化社会の中で育った若い世代は、上の世代とは異なる価値観を持っています。不安定な経済状況や流動的な雇用環境を経験し、組織への帰属意識よりも個人の成長や貢献、ワークライフバランスを重視する傾向が見られます。
- リーダーシップ観の特徴:
- 対話・協調型: リーダーは一方的に指示するのではなく、メンバーと対話し、意見を尊重しながら合意形成を図る。
- コーチング・支援型: リーダーは部下を管理するのではなく、自律的な成長を促し、目標達成をサポートする役割を担う。
- フラットな関係性: 地位や年功よりも、個々の能力や貢献度を重視し、率直な意見交換ができる風通しの良い関係性を好む。
- 多様性の尊重: 様々な価値観や働き方を認め、個々の強みを活かすことを重視する。
- 背景となった時代要因:
- 経済の低迷と雇用の流動化。
- 成果主義・能力主義の広がり。
- インターネット、SNSによる情報共有の容易化とフラットなコミュニケーション。
- 個人の価値観やライフスタイルを重視する社会全体の変化。
- グローバル化による多様な文化との接触。
なぜ世代間で異なるリーダーシップ観が生まれたのか
世代間のリーダーシップ観の違いは、単に「考え方が違う」というだけでなく、その根底に社会構造やテクノロジー、教育の変化が深く関わっています。
- 経済構造の変化: 安定した終身雇用・年功序列から、流動的で成果重視の社会へと変化したことで、組織と個人の関係性や、組織におけるリーダーの役割に対する期待が変わりました。
- 情報環境の変化: マスメディアや一部の人々に集中していた情報が、インターネットやSNSの普及により個人間で容易に共有されるようになりました。これにより、一方的な指示や決定よりも、透明性のある情報共有や双方向のコミュニケーションが重視されるようになりました。
- 教育の変化: 画一的な教育から、個性を尊重し、自ら考え、行動することを促す教育へのシフトも、指示待ちではなく自律的に考え行動する部下を育成する、あるいはそのような部下をマネジメントする上でのリーダーシップ観に影響を与えています。
- 価値観の多様化: 働き方や生き方、幸福に対する価値観が多様化する中で、画一的なリーダーシップスタイルでは多様なメンバーをまとめきれなくなってきました。個々の違いを認め、それぞれの強みを活かすリーダーシップが求められています。
世代間のリーダーシップ観のギャップを乗り越えるには
職場や地域で世代間のリーダーシップ観のギャップに直面した際、どのように対応すれば良いのでしょうか。最も重要なのは、相手の価値観の背景にあるものに関心を持ち、理解しようと努める姿勢です。
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相手の価値観の背景に関心を持つ:
- なぜそのように考えるようになったのか、その人の経験や時代背景に思いを馳せてみましょう。
- 「自分たちの若い頃はこうだった」と一方的に語るだけでなく、「皆さんはどういうリーダー像が良いと思いますか?」と問いかけるなど、相手の考えや経験を聞き出す機会を持ちましょう。
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対話を通じて経験知を共有する:
- 経験豊富な世代が持つ知識や知恵は、若い世代にとって貴重な財産です。しかし、単なる成功談や苦労話として語られるだけでは、若い世代には響きにくいことがあります。
- 特定の状況における判断や課題への向き合い方など、具体的なエピソードを通して、経験に裏打ちされた思考プロセスや判断基準を共有する工夫が必要です。「あの時、私はこのように考えて判断しましたが、皆さんはどう思いますか?」のように、問いかけを交えながら話すことで、対話が生まれやすくなります。
- 一方的に「教える」のではなく、「共に考える」というスタンスが重要です。
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多様なリーダーシップの形を認める:
- 「リーダーはこうあるべき」という固定観念にとらわれすぎず、状況やメンバーに応じて様々なリーダーシップの形があることを認めましょう。
- 若い世代が示す新しいリーダーシップの形(例えば、特定の分野における専門性でメンバーを牽引する、傾聴力が高くチーム内の調整役として機能するなど)からも学ぶ姿勢を持つことは、自身のリーダーシップをアップデートする機会にもなります。
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期待される役割を明確にする:
- 世代間での役割や期待値にずれがある場合、それを曖昧にせず、丁寧にすり合わせを行いましょう。
- 例えば、「このプロジェクトにおけるあなたのリーダーシップに期待すること」を具体的に伝え、それに対する相手の考えや懸念を聞くことで、誤解を防ぎ、建設的な協力関係を築くことができます。
まとめ
世代間でリーダーシップに対する価値観が異なるのは、それぞれの時代背景や経験に根ざした自然なことです。これらの違いを認識し、なぜそのような価値観が生まれたのか、その背景にあるものを理解しようと努めることが、相互理解への第一歩となります。
経験豊富な世代が持つ知識や知恵は、若い世代にとって大きな学びの機会となり得ます。しかし、その伝え方には工夫が必要です。一方的な経験談ではなく、対話を通じて、共に考え、問いを立てる姿勢を持つことが、若い世代に響く経験伝達の方法となります。
多様な価値観を持つ人々が集まる現代において、固定的なリーダー像に囚われず、柔軟に、そしてお互いの違いを尊重しながら関わり合うことが、より良い組織やコミュニティを築く鍵となります。世代間のリーダーシップ観の違いを、対立の種とするのではなく、相互理解を深め、共に成長するための豊かな機会として捉え直してみてはいかがでしょうか。