世代で異なる「メディアとの関わり方・情報源への価値観」:背景を知り、相互理解を深めるヒント
はじめに:情報との向き合い方が変わる時代
日々の生活や仕事において、私たちは様々な情報に囲まれています。新聞、テレビ、ラジオといった従来からのメディアに加え、インターネット上のウェブサイト、SNS、動画サイトなど、情報源はかつてなく多様化しています。
このような状況の中、若い世代の部下や家族が、ご自身の頃とは全く異なる方法で情報を集め、それに基づいて判断している様子を見て、戸惑いを感じることはありませんでしょうか。「どうして〇〇のニュースを知らないのだろう」「なぜ、ネットのあやふやな情報を簡単に信じるのだろうか」といった疑問は、世代間で情報との向き合い方や、何に価値を置くかという「価値観」が異なっていることから生じるのかもしれません。
本記事では、世代によって異なるメディアとの関わり方や情報源への価値観に焦点を当て、その背景にある時代の変化を読み解きながら、世代間の相互理解を深めるためのヒントを探ります。お互いの情報との付き合い方を知ることで、より円滑なコミュニケーションや、ご自身の経験を伝える上での新たな視点を見つけるきっかけとなれば幸いです。
世代で異なる「メディアとの関わり方」に見られる特徴
世代によって、主に利用するメディアや、情報の信頼性を判断する基準には傾向の違いが見られます。
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上の世代(例:50代以上)
- 主な情報源: 新聞、テレビ、ラジオが中心。インターネットも利用しますが、特定の目的(ニュースサイトの閲覧、検索など)に限られることが多いかもしれません。
- 信頼性の基準: 公共性の高いメディア、著名な記者や専門家が発信する情報に信頼を置く傾向があります。紙媒体やテレビの「活字」や「映像」に権威を感じやすいかもしれません。
- 情報収集のスタイル: 体系的に整理された情報(新聞の連載記事、テレビのドキュメンタリーなど)をじっくりと時間をかけて読む・視聴することを好む傾向があります。
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若い世代(例:30代以下)
- 主な情報源: スマートフォンを介したインターネットが中心です。ニュースアプリ、ウェブサイト、SNS(Twitter、Instagram、Facebookなど)、動画サイト(YouTubeなど)、個人のブログやインフルエンサーの発信など、多岐にわたります。テレビや新聞に接触する時間は相対的に少ない傾向があります。
- 信頼性の基準: 情報源の多様性を受け入れつつも、速報性や、多くの人が「いいね」や「シェア」している情報、親しい友人や信頼できるインフルエンサーの発信に影響を受けることがあります。権威よりも、多様な視点や「自分にとって有益か」を重視する傾向が見られます。
- 情報収集のスタイル: 短時間で多くの情報を効率的に収集することを好みます。興味のある情報をピンポイントで検索したり、SNSのタイムラインを流し見したり、動画で視覚的に理解することを好む傾向があります。キュレーションサイト(様々な情報源から特定のテーマで集められた情報をまとめたサイト)を利用することもあります。
もちろん、これらはあくまで一般的な傾向であり、全ての人が当てはまるわけではありません。しかし、このような世代間の利用メディアや信頼の置き方の違いがあることを理解することは、相互理解の第一歩となります。
なぜそのような違いが生まれたのか?背景にある時代の変化
世代間のメディアとの関わり方の違いは、個人の趣向だけでなく、その世代が生きてきた時代の社会状況や技術発展が大きく影響しています。
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技術革命と情報の爆発的増加: 上の世代が成人した頃は、情報源といえば新聞、テレビ、ラジオが圧倒的多数でした。情報の受け手は限られたチャンネルから発信される情報を受け取るというスタイルが一般的でした。 しかし、インターネット、特にブロードバンドやスマートフォンの普及は、誰でも情報を発信・受信できる時代を到来させました。これにより、情報は爆発的に増加し、情報の「受け手」は自ら情報を探し、選ぶスキルがより一層求められるようになりました。若い世代は、物心ついた頃からインターネットが存在し、情報が多様であることを当たり前として育っています。
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情報リテラシーの教育と変化: 情報の信頼性についても、基準が変化しています。かつては、新聞やテレビのような公共性の高い、編集された情報が信頼できるものとされがちでした。しかし、インターネット上には玉石混交の情報が溢れており、情報の真偽を見抜く能力(情報リテラシー)が必須となりました。学校教育でも情報リテラシーに関する内容は扱われるようになり、若い世代は複数の情報源を比較したり、情報の裏付けを取ることの重要性を学ぶ機会が増えています(とはいえ、そのスキルには個人差があります)。
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ライフスタイルとメディア接触: 個人のライフスタイルもメディアとの関わりに影響します。多忙な現代では、新聞をじっくり読む時間が取れない人も増えました。通勤時間やちょっとした隙間時間にスマートフォンで情報をチェックするスタイルは、若い世代だけでなく多くの世代に浸透しています。また、テレビのように決まった時間に放送されるのではなく、自分の好きな時に好きな情報にアクセスできるオンデマンド型の情報消費も、若い世代を中心に広がっています。
これらの時代の変化が複合的に作用し、現在の世代ごとのメディアとの関わり方の違いを生み出しているのです。
世代間ギャップを埋め、相互理解を深めるヒント
世代間のメディアとの関わり方の違いを理解することは、職場で同僚や部下と話す際や、家庭で子供や孫と話す際に役立ちます。相互理解を深めるための具体的なアプローチをいくつかご紹介します。
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相手の「普通」を知ろうとする姿勢を持つ: ご自身にとって当たり前の情報収集方法が、相手にとってはそうではないかもしれない、という認識を持つことが大切です。「なぜその情報源を使うの?」「なぜその情報を信じたの?」と、相手の情報収集の背景や考え方に興味を持ち、質問してみましょう。頭ごなしに否定するのではなく、「へぇ、そういう見方もあるんだね」「そのアプリ、初めて知ったよ」といったように、相手のスタイルを尊重する姿勢を示すことが、対話の糸口になります。
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互いの情報源のメリット・デメリットを理解する: 新聞やテレビは、専門家による編集や校閲を経ており、情報の信頼性が高いという強みがあります。一方、速報性や多様な視点、個人の細やかな体験談などは得にくい場合があります。 インターネットやSNSは、速報性に優れ、多様な意見やニッチな情報にアクセスしやすいという強みがあります。しかし、情報の真偽が確かでないものや、偏った情報も多く含まれているという弱みがあります。 互いの情報源の良い点と注意すべき点を知り、「だから〇〇(新聞・テレビ)の情報は信頼できるんだよ」「だから〇〇(SNS)はすぐに情報が手に入るんだね」といったように、それぞれの特性を認め合うことが大切です。
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自身の経験を「情報リテラシーの変遷史」として語る: ご自身の若い頃は、情報源が限られていたからこそ、限られた情報の中から真偽を見抜く知恵や、人づての情報をどう判断するかといった経験をお持ちでしょう。例えば、「昔はテレビや新聞が唯一の情報源だったから、そこからどうやって自分で考えるか、工夫が必要だったんだ」といったように、ご自身の経験を「情報が少なかった時代にどう情報を扱い、判断してきたか」というストーリーとして語ってみるのはいかがでしょうか。一方的に「今のやり方は間違っている」と指摘するのではなく、ご自身の「経験談」として伝えることで、若い世代も耳を傾けやすくなるかもしれません。
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一緒に新しいメディアに触れてみる: もし抵抗がなければ、若い世代におすすめのニュースアプリや動画サイトなどを教えてもらい、一緒に見てみるのも良い経験になります。どのような情報がどのように表示されるのか、実際に体験することで、若い世代が見ている世界を肌で感じることができます。「この情報はどこまで信じられるんだろうね?」「こういう情報もあるんだね」など、一緒に情報について話すことで、共通の話題にもなり、お互いの考え方を深く知る機会になります。
まとめ:情報との付き合い方の多様性を理解する
世代によってメディアとの関わり方や情報源への価値観が異なるのは、時代の変化に伴う自然な流れです。かつて当たり前だった情報収集のスタイルが変わり、新しいメディアや情報源が次々と生まれています。
この違いを「どちらが正しい、間違っている」と判断するのではなく、「こういう違いがあるのだな」と受け止め、その背景にある社会や技術の変化に目を向けることが、相互理解への第一歩となります。
ご自身の豊富な経験から得た情報の扱い方や判断基準といった「知恵」は、情報過多の現代においても若い世代にとって貴重な示唆を与えうるものです。一方で、若い世代が新しいメディアから得ている情報や、その情報収集のスピード感、多様な視点も、上の世代にとって新たな発見や気づきをもたらす可能性があります。
お互いの情報との向き合い方を知り、尊重し合う対話を通じて、世代間の壁を越えたより良いコミュニケーションを築いていくことができるでしょう。