世代で異なる「飲み会・懇親会への参加意識」:背景を知り、相互理解を深めるヒント
はじめに:変わりゆく職場の「集まり」
職場における飲み会や懇親会は、かつてはチームの一体感を醸成し、円滑な人間関係を築くための重要な機会と見なされていました。しかし近年、若い世代を中心に、これらの「職場の集まり」に対する意識が変化してきていると感じる方がいらっしゃるかもしれません。
なぜ、世代によって飲み会や懇親会への考え方が異なるのでしょうか。これは単なる「付き合いが悪い」といった個人的な問題ではなく、それぞれの世代が育ってきた社会環境や価値観が影響しています。この記事では、世代間で異なる飲み会・懇親会への参加意識の背景にある時代環境を掘り下げ、相互理解を深めるためのヒントや、ご自身の経験を伝える際のアプローチについて考察します。
世代ごとの「飲み会・懇親会」への価値観と背景
世代による価値観の違いは、それぞれの時代に共通して経験した出来事や、その時代の社会構造に大きく影響を受けます。
組織への帰属意識が高かった世代
例えば、現在の50代後半以上の世代(バブル期とその前後の時代に社会人になった世代)にとって、職場での飲み会は仕事の延長であり、重要なコミュニケーションの場でした。
- 背景にある時代環境: 高度経済成長期からバブル期にかけては、多くの企業で終身雇用や年功序列が一般的でした。会社への帰属意識が高く、「会社は家族」のような感覚を持つ人も少なくありませんでした。長時間労働が当たり前で、仕事とプライベートの境界線が比較的曖昧でした。
- 価値観: 飲み会は、部署内外の情報交換、上司や同僚との人間関係構築、本音で語り合う場として機能していました。仕事の成果だけでなく、「付き合い」やコミュニケーション能力も評価される傾向があり、飲み会への参加は昇進やキャリア形成に有利に働く側面もあったため、積極的に参加する人が多かったと言えるでしょう。
ワーク・ライフ・バランスを重視する世代
一方、現在の若い世代(主に20代・30代)は、飲み会に対する価値観が大きく異なります。
- 背景にある時代環境: バブル崩壊後の経済停滞期に育ち、リストラや非正規雇用の増加を目の当たりにしてきました。会社への過度な期待や依存はせず、自身のキャリアやスキルアップ、そしてプライベートの充実を重視する傾向があります。インターネットやSNSが普及し、情報収集や多様なコミュニティでの交流が容易になりました。パワーハラスメントやアルコールハラスメントに対する意識も高まっています。
- 価値観: 仕事とプライベートの境界線を明確にしたいと考える人が多く、定時後の時間は自己投資や趣味、家族・友人との時間に使いたいと考えます。飲み会は「強制されるもの」「時間を浪費するもの」と感じることがあり、参加するならば「目的が明確であること」「短時間で終わること」「参加・不参加を選べること」などを求めます。「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉に象徴されるように、かけた時間に対する効果を重視する傾向も見られます。必ずしも飲み会でしか築けない人間関係があるとは考えておらず、多様な方法でコミュニケーションを取れると感じています。
なぜ違いが生まれるのか:時代背景の解説
これらの価値観の違いは、単に個人の性格や嗜好によるものではなく、社会全体の構造や価値観の変化が深く関わっています。
- 雇用形態と組織文化の変化: かつての終身雇用・年功序列型組織では、長期的な人間関係や組織への貢献が重視されました。飲み会はその基盤を築く一助でした。現在の成果主義・流動的な雇用環境では、個人のスキルや成果が重視され、組織への帰属意識が希薄になる傾向があります。
- コミュニケーション手段の多様化: 固定電話と対面コミュニケーションが中心だった時代から、メール、チャットツール、SNSなどが日常化したことで、非公式な情報交換や人間関係構築の手段が増えました。飲み会が唯一、あるいは主要な「本音で話せる場」ではなくなったのです。
- ハラスメントへの意識向上: アルコールを伴う場での言動に対する社会的な目が厳しくなりました。このため、若い世代はハラスメントのリスクを避けたい、あるいはハラスメントと感じる言動に敏感になっている可能性があります。上の世代が無意識に行っていた言動が、ハラスメントと受け取られるリスクも高まっています。
- 「個」の尊重: 多様な価値観が認められるようになり、集団行動よりも個人の意思やプライベートな時間を尊重する傾向が強まっています。
世代間ギャップを解消し、相互理解を深めるヒント
飲み会・懇親会への価値観の違いによって生じる職場の戸惑いは、相互理解を深めることで解消できます。
- 違いを認め、相手の価値観を尊重する: まず大切なのは、「飲み会に行かない=付き合いが悪い」と安易に決めつけず、相手には相手なりの理由や価値観があることを理解しようとする姿勢です。若い世代にとって、プライベートの時間は極めて重要であり、それを仕事のために犠牲にすることに抵抗があるのだ、と受け止めてみてください。
- 目的と選択肢を明確にする: 飲み会を開催する際は、「〇〇さんの歓迎会です」「プロジェクトの打ち上げです」のように目的を明確に伝えましょう。そして、「参加は任意です」「途中参加・途中退席も可能です」といった選択肢があることを必ず示してください。
- 形式にこだわらない交流を模索する: 必ずしも夜に集まってお酒を飲むだけが交流の場ではありません。ランチを一緒にする、休憩時間に雑談する、共通の趣味の話題で盛り上がる、オンラインで気軽に話すなど、多様な形式でのコミュニケーションを試みてはいかがでしょうか。
- 費用や時間を考慮する: 若い世代にとって、飲み会費用は負担に感じることがあります。会社の補助を活用したり、リーズナブルなお店を選んだり、一次会で終えるなど、経済的・時間的な負担を減らす配慮も有効です。
ご自身の経験を伝えるには
長年社会人として経験を積まれた方々には、飲み会を含めた様々な場での経験から得た貴重な知見があることでしょう。それを若い世代に伝えたいと思われるかもしれません。その際には、伝え方を工夫することで、より効果的に、相手に受け入れられやすくなります。
「昔はこうだった」「俺たちの頃は当たり前だった」という一方的な押し付けではなく、「自分が社会人になった頃は、飲み会でこういう情報交換をすることで仕事が円滑に進むことがあったよ」「あの時の飲み会で、〇〇さんと腹を割って話せたことが、その後のプロジェクト成功につながった経験があるんだ」というように、ご自身の具体的な経験談として語ることが有効です。
なぜ当時の組織において飲み会が機能していたのか、その背景にある社会構造や価値観を丁寧に説明することで、「なぜそうだったのか」という理解が深まります。「今の時代に全てが当てはまるわけではないかもしれないけれど、こういう考え方もあると知っておいてもらえれば嬉しい」という謙虚な姿勢を示すことで、相手も耳を傾けやすくなります。
重要なのは、ご自身の経験や価値観を「絶対的な正解」として押し付けるのではなく、多様な価値観の一つとして提示し、相手の考えや経験にも耳を傾けることです。
まとめ
世代によって飲み会・懇親会への参加意識が異なるのは、それぞれの世代が異なる時代背景の中で育ち、異なる社会構造や価値観に触れてきた結果です。かつては職場の重要な機能の一つであった飲み会が、現代では必ずしもそう捉えられていない現実を受け止めることから、相互理解は始まります。
違いを否定するのではなく、「なぜそう考えるのだろうか?」と相手の背景に思いを馳せることが大切です。そして、互いの価値観を尊重しながら、より良い職場の人間関係やコミュニケーションの方法を共に模索していく姿勢が、世代間の相互理解と円滑な連携につながるはずです。ご自身の貴重な経験を伝える際にも、時代背景への配慮と相手への敬意を持つことで、建設的な対話が可能になるでしょう。