世代で異なる「服装・身だしなみ・服装規定」の価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント
職場や社会生活で感じる「服装・身だしなみ」の価値観の違い
職場や公共の場で、若い世代の服装や身だしなみを見て、「少しルーズではないか」「TPOをわきまえていないのではないか」と感じたり、逆に自身の服装や考え方について若い世代から戸惑いの目で見られたりすることはございませんでしょうか。また、組織における服装規定やドレスコードについても、世代によって捉え方や重要視する点が異なり、コミュニケーションにおいて壁を感じる一因となることもあります。
こうした服装や身だしな方、あるいは服装規定への意識の違いは、単なる個人の好みの問題ではなく、それぞれの世代が育ってきた社会環境や経験によって培われた価値観に深く根差しています。その背景を理解することで、無用な誤解を減らし、世代間の相互理解を深める一助となるはずです。
本記事では、世代による服装・身だしなみ・服装規定への価値観の違いに焦点を当て、その背景にある時代的な要因を解説するとともに、相互理解のための具体的なヒントや、自身の経験を伝えるためのアプローチについて考察します。
世代によって異なる「服装・身だしなみ・服装規定」への価値観
服装や身だしなみに対する価値観は、世代間で以下のような傾向の違いが見られます。
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上の世代(ミドル・シニア層)の傾向:
- 組織の一員としての規律・統一感を重視: 個性よりも、組織全体の調和やフォーマルな場でのふさわしさを優先する傾向が強いです。
- TPOを強く意識: 場面や相手に応じた適切な服装・身だしなみを重視します。「常識」として、場にそぐわない格好は避けるべきだと考えます。
- 信頼感・堅実さの表現: スーツなど、伝統的なフォーマルウェアやきちんとした身なりが、ビジネス上の信頼感や誠実さを表すと考えがちです。
- 服装規定への意識: 組織が定める服装規定は守るべきルールであり、それに従うことは当然だと考えます。
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下の世代(若年層)の傾向:
- 個性の尊重・働きやすさの追求: 自身の個性を表現することや、長時間快適に働ける服装を選ぶことを重視する傾向があります。
- カジュアル化への抵抗のなさ: ビジネスシーンでも、業界や職種によってはカジュアルな服装を受け入れやすく、フォーマルとカジュアルの境界が曖昧になってきていると感じています。
- 自己表現・柔軟性の重視: 服装や身だしなみを、自己肯定感や創造性を高める手段の一つと捉え、柔軟な考え方を好む傾向があります。
- 服装規定への意識: 服装規定はあくまで目安やガイドラインと捉えたり、その必要性や合理性を問うたりすることがあります。目的が不明確な画一的な規定には疑問を持つこともあります。
これらの違いは、どちらが良い・悪いということではなく、それぞれが育ってきた社会の状況や教育、情報環境によって培われた考え方の違いとして捉えることが重要です。
価値観が形成された時代背景を探る
なぜこのような価値観の違いが生まれたのでしょうか。その背景には、以下のような時代的な要因が影響しています。
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高度経済成長期からバブル期(上の世代の成長期・社会人初期):
- 企業への帰属意識が強く、組織の一員としての統一性が求められる時代でした。会社のため、組織のために働くことが美徳とされ、服装もそれに合わせた画一的なスタイルが一般的でした。
- 集団行動や協調性が重視される教育を受けてきました。
- テレビや雑誌などのマスメディアからの情報が中心であり、流行や「正しい」とされるスタイルがある程度限定されていました。
- フォーマルな服装やきちんとした身なりは、社会的な信頼や地位を示すものとして重要視されました。
- 公務員などの組織では、特に規律や規範を重んじる風土が強く、服装規定も厳格な傾向がありました。
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経済停滞期から現在(下の世代の成長期・社会人):
- 終身雇用制度の崩壊や成果主義の導入などにより、企業への帰属意識よりも個人のスキルやキャリアを重視する傾向が強まりました。
- 「個性を大切にすること」や「多様性の尊重」が教育や社会全体で意識されるようになりました。
- インターネットやSNSの普及により、世界中の多様なファッションや価値観に触れる機会が増え、自分らしいスタイルを追求しやすくなりました。
- IT業界を中心に、服装自由など、よりカジュアルで働きやすさを重視したワークスタイルが登場・浸透し始めました。
- 「心理的安全性」など、個人の快適さや自己肯定感が組織の活性化に繋がるという考え方が広まっています。
- オンラインでのコミュニケーション(ビデオ会議など)が増え、対面とは異なる身だしなみの基準や捉え方が生まれています。
このように、上の世代は「組織の一員として」「信頼を得るために」「場に合わせる」といった外向きの規範や社会的期待に応えることを重視する傾向があり、下の世代は「自分らしく」「快適に」「柔軟に」といった内向きの感覚や個人のニーズを重視する傾向が相対的に強いと言えます。
世代間の相互理解を深めるためのヒント
服装や身だしなみに関する価値観の違いは、時に戸惑いや摩擦を生むことがありますが、背景を理解し、歩み寄る姿勢を持つことで、より建設的な関係を築くことができます。
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「なぜそうなのか」の背景に目を向ける: 単に「だらしない」「堅すぎる」と決めつけるのではなく、「なぜその服装を選ぶのか」「なぜ服装規定を大切にしているのか」といった、お互いの考え方やその背景にある理由に関心を持つことが第一歩です。相手の服装の意図や、自身の服装への考え方が形成された背景に思いを馳せてみましょう。
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決めつけず、丁寧に問いかける: もし若い世代の服装に疑問を感じた場合、「〇〇さんの服装について、少しお伺いしてもよろしいですか?」「どういった考えでその服装を選んでいるのか、興味があります」のように、非難ではなく純粋な関心から問いかける姿勢が大切です。「君の服装はTPOをわきまえていない」といった一方的な言い方では、反発を招きかねません。
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自身の「経験」を「意図」とともに伝える: 自分が若い頃、なぜ特定の服装や身だしなみを心がけていたのか、あるいは服装規定を守ることが自身のキャリアや人間関係にどのように役立ったのかなど、具体的な経験談を交えて話してみましょう。その際、「これは絶対だ」「こうすべきだ」といった断定的な「べき論」ではなく、「私の経験では、このようにすることで、お客様からの信頼を得やすくなったと感じています」「〇〇という場では、こういう服装をすることで、相手に敬意を示せると教わりました」のように、自身の「意図」や「学び」を伝えることが重要です。
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組織のルールと個人の価値観のバランスを考える: 職場においては、組織の目的(例:顧客からの信頼確保、安全性の確保など)を達成するために必要な服装規定やルールがあるはずです。その「目的」を明確に共有した上で、どこまで個人の価値観や働きやすさを尊重できるか、柔軟な視点を持つことも、上の世代が若い世代に示すことができる配慮の一つです。ただし、これは組織全体の課題でもあり、個人間の相互理解の範疇を超える場合もあります。
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世代内の多様性も認識する: 同じ世代内でも、価値観は一人ひとり異なります。ここで述べた傾向はあくまで一般的なものであり、個々の経験や考え方を尊重する姿勢を忘れないことが大切です。
まとめ:違いを受け入れ、経験を共有する姿勢が鍵
服装や身だしなみ、服装規定に対する価値観の違いは、多くの世代で共通して起こりうる摩擦の原因の一つです。しかし、これらの違いが単なる表層的なものではなく、それぞれの世代が経験してきた社会状況や教育に深く根差したものであることを理解することで、若い世代への見方も変わるはずです。
自身の経験を通じて培われた「身だしなみの大切さ」や「TPOをわきまえることの意義」を若い世代に伝える際には、「私の若い頃はこうだった」「こうすべきだ」と一方的に押し付けるのではなく、「なぜ私はそう考えるのか」「私の経験から、こういう時にこんなメリットがあった」という形で、自身の意図や学びを穏やかに共有することが有効です。
世代間の価値観の違いを認め、その背景を知ろうと努める姿勢、そして自身の経験を押し付けではなく共有する姿勢を持つことが、相互理解を深め、より円滑で建設的な人間関係を築くための大切な一歩となるでしょう。