世代で異なる「育成・指導」の価値観:背景を知り、相互理解を深めるヒント
職場で若い世代を育成したり、経験を伝えたりする際に、「どうも話が通じない」「自分の常識が通用しない」と感じることはないでしょうか。良かれと思って伝えたことが響かなかったり、逆に戸惑われたりすることも少なくないかもしれません。これは、世代によって「育成されること」「人を指導すること」に対する価値観や期待が異なっていることが一因として考えられます。
この記事では、なぜ世代間で育成・指導の価値観に違いが生まれるのか、その背景にある時代環境に触れながら解説し、お互いを理解し、より建設的に関わるためのヒントを探ります。
世代によって育成・指導の価値観が異なる背景
世代ごとの育成・指導に対する価値観は、その世代が育った社会環境、教育制度、経済状況、そして技術の進化など、様々な時代背景によって形成されます。
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上の世代(例:主に高度経済成長期〜バブル期に社会人となった世代):
- 時代背景: 終身雇用、年功序列が当たり前とされ、組織への帰属意識が強かった時代です。経済は右肩上がりで、競争も激しく、長時間労働が美徳とされる風潮がありました。情報伝達の手段も限られていました。
- 育成・指導観: OJT(On-the-Job Training)、つまり「現場で見て覚えろ」「上司や先輩の背中を見て学ぶ」ことが主流でした。「厳しさの中に成長がある」「失敗から多くを学ぶ」「多少の無理は当然」といった考え方も共有されやすかったと言えます。指導は一対一、あるいは少人数で集中的に行われることが多く、精神論や根性を重んじる側面もありました。
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若い世代(例:主に失われた10年〜デジタル化以降に社会人となった世代):
- 時代背景: バブル崩壊後の不況、リストラ、成果主義の導入などにより、終身雇用や年功序列への信頼が薄れました。インターネットやスマートフォンの普及により情報が氾濫し、多様な価値観に触れる機会が増加。教育も詰め込み型から探究型へと変化し、個性を尊重する傾向が強まりました。ハラスメントに関する意識も高まっています。
- 育成・指導観: 体系的な研修やマニュアルによる明確なインプットを重視する傾向があります。具体的な指示や期待されるアウトプットの明確化を求め、フィードバックは定期的かつ具体的であることを好みます。効率性を重視し、仕事時間とプライベート時間を区別したいという意識が強いです。心理的な安全性がある環境でのびのびと学びたい、というニーズも高まっています。
このように、育った環境が全く異なるため、同じ「育成」という言葉でも、上の世代は「試行錯誤を通じて体得させるもの」、若い世代は「効率的かつ計画的にスキルや知識を習得するもの」というように、無意識のうちに認識にずれが生じることがあります。
世代間ギャップを乗り越え、相互理解を深めるヒント
この価値観の違いを理解することは、世代間のコミュニケーションを円滑にし、より効果的な育成・指導を行うための第一歩です。
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「当たり前」を問い直す姿勢を持つ: ご自身が当たり前だと思っている育成方法や指導スタイルが、相手にとっては全く新しい、あるいは違和感のあるものである可能性を認識することが重要です。「私が若い頃はこうだった」という経験談は、背景説明なしには響きにくいことがあります。まずは「なぜこの方法で育成するのか」「この経験から何を学んでほしいのか」といった意図を丁寧に伝えることから始めてみましょう。
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対話を通じて期待値をすり合わせる: 一方的に指示するだけでなく、相手が育成や指導に対してどのような期待を持っているのか、どのような方法が学びやすいと感じるのかを聞いてみる時間を持ちましょう。また、こちら側が相手に何を期待しているのか(例:いつまでに、どのレベルで、どのような成果を出してほしいのか)を具体的に、かつ分かりやすく伝えることも大切です。対話を通じてお互いの認識をすり合わせることで、無用な誤解を防ぐことができます。
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伝え方・教え方を工夫する: マニュアルや具体的なステップを求める傾向のある若い世代には、まずは全体像を示し、次に具体的な手順を分解して説明したり、参考となる資料やツールを提示したりすることが有効です。「見て覚えろ」ではなく、「ここを見ながら、この通りにやってみよう」といった具体的なアプローチが理解を助けます。また、良かった点や成長した点を具体的にフィードバックすることで、モチベーションの維持につながります。
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経験を伝える際の視点を持つ: ご自身の豊富な経験は、若い世代にとって貴重な財産となり得ます。しかし、単に「昔は大変だった」「私の時代はこうだった」と語るだけでは、「説教」と受け取られかねません。経験を伝える際は、以下の点を意識してみてはいかがでしょうか。
- 時代背景を添える: なぜその時、そのような判断や行動が必要だったのか、当時の状況(経済、技術、社会規範など)を簡単に説明する。
- 成功・失敗の要因を分析する: 結果だけでなく、なぜうまくいったのか、なぜ失敗したのか、その具体的な要因や判断の過程を言語化する。
- 普遍的な学びを示す: その経験から得られる、時代が変わっても通用する本質的な教訓や考え方を伝える。
- 「あなたならどう考える?」と問いかける: 一方的に押し付けるのではなく、相手に考える余地を与え、自分事として捉えてもらう工夫をする。
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世代内の多様性にも目を向ける: 「今の若い者は」「私たちの世代は」と一括りにするのではなく、一人ひとりの個性や経験が異なることを理解することも重要です。同じ世代でも、育った家庭環境、経験した出来事、興味関心は様々です。ステレオタイプにとらわれず、個人として向き合う姿勢が相互理解を深めます。
まとめ
世代間の育成・指導に関する価値観の違いは、どちらかが正しく、どちらかが間違っているという問題ではありません。それぞれが育ってきた時代環境に適応する中で自然に形成されたものです。この違いを否定するのではなく、「そういう考え方もあるのか」と受け入れ、その背景にある理由を理解しようと努めることから相互理解は始まります。
ご自身の経験や知見を若い世代に伝えることは、組織の継続的な成長にとって不可欠です。価値観の違いを知り、伝え方や関わり方を少し工夫するだけで、世代を超えた建設的なコミュニケーションが生まれ、より良い育成環境を築くことができるはずです。この記事が、世代間の相互理解を深め、より円滑な人間関係を築くための一助となれば幸いです。